Blog記事一覧
エイズウイルス(HIV)に感染すると1~2週間後に、風邪に罹った様な発熱や喉の痛みが現れますが、2~3週間でこれらの症状は一旦治まります。
これは免疫機構が働き出し、中和抗体や細胞性免疫によってウイルスが血中から排除されるからです。
普通のウイルス感染ならここで終わり、症状は無くなりますが、HIVは遺伝子の組み込みと言う性質を使ってヘルパーT細胞の中に生き残ります。
この後、4、5年から長い人で10年以上、抗体陽性のまま無症状に経過します。
以前はこの無症候期、HIVは細胞の中で大人しく眠っていると考えられていましたが、今は研究の結果この期間もHIVは細胞中で自分の複製を作り続け、その数は1日に100億個に昇る事が分かったのです。
感染したヘルパーT細胞はHIVの作用と免疫機構の標的となって、敵からも味方からも破壊されていきます。宿主側は失われたヘルパーT細胞の再生にやっきになりますが、ゆっくりとヘルパーT細胞は滅少していきます。
つまり宿主がまだ抵抗出来る力が残っている間が無症候期なのです。HIVはとても変異しやすく、その確率はウイルスが1回複製されると、必ず1カ所は親ウイルスと違うという位高いのです。
エイズ発症後の後期の変異ウイルスは、無症候期の時のウイルスに比べて増殖力、細胞破壊性、病原性、どれもが強くなっているので、初期の抗体は役に立ちません。このことがワクチンや抗エイズ薬の開発を困難にしているのです。
STDとしての肝炎肝炎ウイルスにはA型からG型まであり、現在確実にSTDと認められているのはB型です。
しかし最近ではA、C型もSTDの面があると考えられる様になりました。
A型肝炎ウイルスは一般的に感染者の糞便中のウイルスが経口感染するものですが、男性同性愛者では性行為の一つとして感染するためSTDとみなされています。
ただしA型肝炎は慢性化する事はありませんし、普通は3ヶ月位で治癒します。劇症化する事は余りありません。B型肝炎は血液を介して感染します。
輸血や注射器等医療行為等が感染経路となる事が最も多い物ですが、B型急性肝炎の5~30%は性行為によると言われます。
多数者と性行為を持つ機会が多い性風俗業の女性ではそうで無い女性と比べて高率で抗体が陽性であるという調査結果があります。B型の急性肝炎も自然治癒するのですが、1~2%が劇症化したり、またはキャリアとなって感染源となります。
感染は性行為の相手がB型肝炎ウイルスのキャリアである場合に感染します。入浴やプール、整髪、食器等に特別配慮する必要はありませんが、カミソリ、歯ブラシ、タオルの共用は避けます。
もちろん傷の手当時等他人に血液が触れ無い様にする事が必要です。
C型の急性肝炎では劇症化はまれですがキャリアになる率が高く、急性から60~80%が慢性へ移行します。
やはり血液を介しての医療行為による感染が主で、夫婦間感染の確率も低いとはいえ、性風俗衆の女性のキャリア率が高いなどの疫学的調査によってSTDと考えられるものです。予防法はB型肝炎ウイルスと同様です。
淋病による尿道炎は依然として男性では多い疾患です。感染機会から約1週間の潜伏期間の後、急性尿道炎を発症します。
外尿道口より膿を排泄して、痛みを伴い、尿道口の所に発赤が出て来ます。
また更に上行性に侵入して行くと、後部尿道炎、精巣上体炎、前立腺炎等も発症する事があります。女性では子宮頚炎や上行感染により骨盤内感染症を起す事があります。
従来淋菌感染症にはペニシリン系薬が効いたのですが、耐性菌の増加で、1980年代にはより強力な抗菌力を持つニューキノロン系薬が広く使われていました。
しかし最近はそれにも耐性を持つ淋菌が表れた事が問題化しています。
この淋病の年次推移を見ると1980~1484年にかけて増加した淋病は1984年をピークに年々減少しています。この減少していた期間は丁度エイズが社会問題になり、マスコミも大きく取り上げ、さらにエイズ予防法が出来た時期にほぽ一致しています。
つまりエイズキャンペーンによる副次的効果と言えるでしょう。ところが、1995年よりまた増加の兆しが出て来たのです。
それはエイズに対する人々の関心が薄れた事や、性交以外の性風俗業がまた盛んになって来た事が挙げられます。
またエイズに比べ淋病は簡単に治る病気だという安易さがあり、自己判断による服薬中断などで薬剤耐性の菌を増加させた事も原因のーつと推定されています。
コンドームというと避妊具のひとつでもありますが、STDの予防アイテムとして極めて有効な物です。病原体を含んでいる血液、精液、誼分泌液等と性器の粘膜との接触を遮断するからです。このコンドームが重要視されたのはエイズ予防です。現在世界のエイズウイルス感染者は5000万人を突破し、この内すでに1600万人が死亡しています。WHOが99年11月発表した調査で、コンドームの普及が遅れているアフリカでは2200万人がエイズ感染者で、エイズのために平均寿命が現在の59才が5~10年後に44才になる可能性があるといいます。一方タイやフィリピンでは、エイズ予防教育の効果でコンドームが普及し感染者の増加に歯止めがかかったのです。コンドームはエイズ以外のSTDにもたいへん有効ですが、我が国の最近の調査では東京都立高3年生の性交経験率が40%近くあり、そのうち常に避妊している人は30%しかなく、コンドームが使用されていない無防備なセックスがおこなわれているのです。そのためか15~19才代で性器クラミジア症や淋病といったSTDが急増していることが厚生省の調査でわかりました。エイズを始めとするSTDから身を守るためにも正しい性教育をすることが一番の予防なのです。
コンドームで防げるSTD
淋病、クラミジア、エイズ、B型肝炎、トリコモナス、赤痢アメーバ症、マイコプラズマ
コンドームで防げる可能性があるSTD
梅毒、性器ヘルペス、せんけいコンジローム
コンドームで防げないSTD
ケジラミ、カンジタ、疥癬、伝染性単核症
最近STDという用語は一般的な言葉として浸透してきましたが、STDに深い関係のあるPIDという言葉は余り馴染みがありません。
PIDとは直訳すれば骨盤内の炎症性の疾患という事ですが、具体的には骨盤腹膜炎や卵巣卵管膿瘍、子宮内膜炎等の事を指します。PIDがSTDに関係があると言うのは、女性の場合STDは女性特有と言えるPIDを引き起こす事があるからです。
女性の生殖器は膣、頚管、子宮内腔、卵管というように、いわば外部に接しています。さらに卵管は腹腔にも開いています。
ですからSTDに感染した場合、これら外部に接しているも同然の臓器からの上行感染によって、骨盤内炎症性の疾患に移行し易い事です。
また月経の時、月経血は腹腔内に逆流する場合があります。子宮内でSTD等に感染していればこの月経血によって原因菌が腹腔内に入りやすくなりますから、月経もPIDの発症に影響していると言う事になります。
卵管が障害されると卵管周囲癒着や受精卵の輸送が上手く行かなくなるなどの機能障害によって不妊になる事もあります。
クラミジア等が増殖を繰り返して菌の量が増えたりすれば、骨盤内だけの炎症に留まらず上腹部にまで達する事があり、女性のSTDは男性より深刻だとも言えます。
梅毒トレポネーマは性交時に皮膚や粘膜の微小な傷口から侵入し、血行性、リンパ行性に全身に広がり、臓器や組織を侵す様になります。
以前はSTDの代表の様に言われましたが、ペニシリンの登場によって激減し、かつての100分のl、最近の保健所への届け出数は年間1000入程度です。
ですから若い医師は梅毒の患者を診察した事が無く、初期症状ではなかなか特定出来ずに別の病名にしてしまう事もあると言われています。
とは言え、約20年周期で流行を見せていて、終戦時の流行の後、1965、1985年前後にピークを持ち、梅毒の患者数は現行の統計法になった平成12年以前は低い数値でしたが少しずつ増加に転じ昨年あたりから着実に届け出患者が増え始めています。
潜在的な梅毒患者もじわじわと増加していると考えられます。保健所への届け出をみると献血、集団検診、人間ドック等で偶然発見される比率が高くなっているのです。
このトレポネーマの中には性病ではありませんが、皮膚に病変を作る種類もあり、世界各地で伝染病として流行している地域があります。
これらは皮膚の病変に接触する事で伝染します。現在梅毒トレポネーマはエイズの登場で後方に追いやられた感がありますが、潜伏しながら生き延びる為の次の戦略を練っているかもしれません。
撲滅寸前とも言われていますが、だからこそその逆襲に目を光らせる必要がある恐い病気なのです。
エイズ療法にはこれまで数種の逆転写酵素阻害薬剤を併用するカクテル療法が行われてきましたが、最近では新たにプロテアーゼ阻害剤が使われるようになっています。
逆転写酵素阻害薬剤はHIVのRNA遺伝子がヘルパーT細胞にある正常なDNAに逆転写する酵素の働きを阻害する薬剤でAZT、ddl、3TC等があります。
プロテアーゼ阻害剤は、HIVウイルスが転写されたDNAから作られる蛋白質を新たにHIVウイルスに組み立て様とする時に働く、プロテアーゼと言う酵素を阻害する物です。
どの薬剤もHIVの増加を防ぐのですが、HIVは大変変異しやすい為すぐに薬剤耐性を持ちます。
そこで最近ではHIVを各段階で阻害する事で抑制効果を強化する方法として、逆転写酵素阻害薬2剤とプロテアーゼ阻害剤を併用して使うHAART(高活性抗レトロウイルス療法〉が行われる様になりました。
その結果HIVのRNAが血中に検出され無くなり、ヘルパーT細胞数も増加する様になりました。
すでにエイズを発病した患者でも数年長生き出来、この良い状態が2年以上も続く事から、エイズは今や制御可能な病気であるとみなされる様になって来たのです。
しかし1日に20錠以上の薬を服用しなければならない事、強い副作用、高コストの問題等が課題となっています。
HIVの感染は、ヘルパーT細胞やマクロファージの表面にあるCD4という蛋白質分子のレセプターから感染すると思われていましたが、1996年にCD4はHIVの吸着に関与するだけで、細胞内への侵入や、融合にはもうひとつの因子としてCCR5とCXCR4という蛋白質の存在が分かりました。
HIVにはマクロファージに感染出来るウィルスとヘルパーT細胞に感染するウィルスがあり、前者はCCR5を、後者はCXCR4をセカンドレセプターとして利用するのです。
マクロファージに感染出来るHIVは感染直後からエイズが発症するどの病期にも存在し、感染初期に重要な役割をになっていると考えられています。
ヘルパーT細胞に感染するHIVは無症候期からエイズを発症する時に患者の体内に出現し、強い殺傷能力からヘルパーT細胞の数を減少させる役割を持っていると考えられています。
このセカンドレセプターのCCR5が遺伝的に欠損している人が、不特定多数のHIV感染者と多くの性交渉を持ちながらもHIV全体の感染から免れる事が出来るという事が、注目を集めています。
多くは白人に見られ、健康上全く問題はありません。どうして感染しないのかというしっかりした説明はまだなされていませんが、CCR5の機能を抑制する事で感染が防ぐ事が出来無いかと研究が進められています。
体に入った異物はT細胞が認識して免疫反応が始まります。ヘルパーT細胞は抗体を作る様に働き、サプレッサーT細胞は抗体産生を抑制する様に働きます。
このバランスが上手く行けば体を守る免疫として作用し、マイナスに働けばアレルギー症状を起こすのです。
ヘルパーT細胞がサイトカインを作ってB細胞に働きかけると、B細胞はlgE抗体を作り始めアレルギーを起こす様になるのです。
lgEは体中にある肥満細胞や血液中の好塩基球と結合してヒスタミン等の毒性の強いアミン化合物を分泌させて様々なアレルギーの症状を起させる訳です。
lgE抗体は最も多い抗体であるlgG抗体の1万分の1の量しか無いのに激しい反応を起こし、時にはアナフィラキシーショックで死に至らせる事もあるのです。
元々lgE抗体は寄生虫感染用に体が用意した物ですが、寄生虫がほとんど居なくなってしまった今、攻撃の矛先が自分に向けられる様になったのだと考えられます。
ところでlgG抗体はもっぱら細菌等の侵入によって多量に作られますが、lgGが沢山作られるとlgEの産生は抑制されます。つまり体が細菌と闘っている間はlgEは余り作られないのです。
しかし衛生的で抗生物質が使われる様になった体は細菌とも闘う必要が少なくなり、lgEの産生を押さえ込む事が出来なくなってアレルギーに悩まされる様になったと言えるのです。
アレルギー疾患は遺伝的な素因が関係していることは両親や兄弟や祖父母の内誰かがアレルギー疾患を持っているとなりやすい事でも明らかです。
疫学的な調査によると、一般的に一人の子供がアレルギー症状を発症する確率は20%です。
しかし、片親がアレルギー体質が有れば50%になり、両親共アレルギー体質を持っている場合は66%に上ると言われています。
最近の遺伝子研究で特定の染色体の遺伝子とアレルギー疾患が明らかにされてきました。
それによると染色体の4番には気道過敏症、6番には好酸球数、7番には気道過敏症、11番、13番、16番にはアトピー素因の病因遺伝子がある事が分かって来ました。
この様に複数の遺伝子が病因遺伝子として存在していて、それらが複合的に関与して多様な病態を作ると考えられています。
遺伝的素因との関係がハッキリしている病気にはアレルギー以外に肥満、癌、糖尿病、高脂血症等もありますが、生活の質(QOL)を高める事でかなり予防する事が出来ます。
アレルギー体質も同じで、特に食生活や環境衛生に注意する事で、病気の発生を遅らせる事が出来ますし、発症しないまま一生を送る事が出来ます。
つまり、アレルギー体質が遺伝しても、疫学的には半分の人にしか発症しない病気と言う風にも考えられるのです。