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免疫 - Part 5の記事一覧
「血液の癌」と言われている急性骨髄性白血病や再生不良性貧血病等の医療には骨髄移植をします。移植する為には提供者と移植者の白血球の型(HLA)が適合する人から骨髄を採取するのですが、全身麻酔をかけたりして提供者に肉体的な負担も多いのです。そこで提供者の負担が少なくて済む方法として赤ちゃんのへその緒や胎盤から採取した臍帯血を使うのです。隋帯血には骨髄と同様、赤血球、白血球、血小板など血球の元である造血幹細胞が含まれ増殖力も強いのです。また免疫能力が低い事から、骨髄移植よりも拒絶反応や移植片対宿主病も少ないのです。課題としては採取量が少ない為に小児には移植出来るのですが、成人には出来ない事です。東北大学血液免役科張替秀郎教授らは研究を進めています。またこの細胞を特洙な培養法で50倍に増やして、成入に移植し成功した報告がされています。また骨髄や臍帯血の造血幹細胞の移植で慢性関節リウマチ等の自己免疫疾患の患者に移植する事で改善をしようという試みがあります。これはたまたま骨詮移植を受けた患者が併発していな自己免疫疾患が改善してしまったという事が報告されたからです。もし効果がある事が分かれば、現在、厚生労働省が特定疾患(難病)指定している130の半数の自己免疫疾患に対してこの医療行為が可能になるのです。
身体に良いと言う事で運動をしますが、その運動は免疫システムから見ると適度な運動が免疫力を高め、感染症、癌、心臓病から守ってくれます。免疫力を高める適度な運動とは、有酸素運動で一日最低20分を週3~4日行う事です。アメリカ、スポーツ医学カレッジによると、トレーニングのし過ぎによる免疫低下を防ぐ為には最大心拍数が60~80%が理想です。自分の心拍数を計算する方法は220から自分の年齢を引きます。50歳の人なら、170になり、その60~80%である102~136の心拍数を20分間行うのが最も効果が高いそうです。適度な運動をすると免疫力は強化され、その中でマクロファージ、顆粒球、NK細胞の働きが活性化され、バクテリア、ウイルス、癌細胞を活発に食べる様になります。この免疫変化は運動後、15分から2時間で運動前に戻り、一日中続くものではありません。過度な運動では運動後にはリンパ球の増殖能力が低下し、免疫力も落ちます。過度な運動は血中のストレスホルモンの量を増やし免疫力を弱める傾向にあるのです。また交感神経からアドレナリンが多く放出されると顎粒球やNK細胞の働きが弱くなる事も研究で報告されています。ハードな運動をする人は感染症に罹りやすいと言われるのはこの為です。休養や食事で予防する事が大切になるのです。
免疫系の重要な仕事に抗体の産生があります。自然界には多数の抗原物質を持つ病原体があります。この抗原と抗体は良く比喩的に鍵と鍵穴に例えられますが、この鍵と鍵穴の関係は抗原と抗体の分子全体についてでは無く、それぞれの分子が特徴的に持つアミノ酸数個分に相当する部分によって成り立っています。この抗体を産生する為には抗原提示細胞、T細胞それにB細胞等の免疫系の細胞が協力して働きます。抗原提示細胞が異物の侵入を確認してT細胞に情報を伝えると、T細胞が抗原のと、その指令を受けたB細胞が分化して形質細胞(抗体産生細胞)になり、その情報のアミノ酸分子を合成・分泌します。しかし、この抗体を作る能力は人の遺伝子で見るとせいぜい数万個程度しか無いのに、億単位の違った鍵穴を持つ抗原に対抗出来る事が謎でした。この謎を解き明かしたのがノーベル賞を受賞した利根川進です。彼は抗原の鍵穴であるレセプターと結合するB細胞の鍵は単一の遺伝子では無く、複数の遺伝子の断片が結合している事を明らかにしたのでした。その為ランダムに一つ選ばれて結合するのでその組み合わせは膨大になり、億単位の抗原の鍵穴に対する鍵を作る事が可能になったのです。
免疫系の中でサーカディアンリズム(日内リズム)と連動して働いているのがリンパ球と白血球の60~70%を占める頼粒球(好中球、好塩基球、好酸球)です。人間は日中には身体を活動させている為に自律神経系の交感神経が緊張状態になり、夜間には内臓の活動を促進させる副交感神経優位になっています。日中には交感神経を刺激するアドレナリンが増していますが、顆粒球はこのアドレナリンのレセプターを持っています。またリンパ球にはアセチルコリンのレセプターがあります。その為類粒球は日中に増加して、リンパ球は夜間に増加するリズムが生まれるのです。他の血液成分である赤血球と血小板も自律神経系に影響を受けて顆粒球と共に増加傾向を示します。この赤血球や顆粒球の増加の理由は活発に身体を動かす為であり身体が傷ついて侵入した細菌をやっつける顆粒球を増やしておく事が必要だからです。また、夜間にリンパ球が増えるのは食べ物と共に侵入した病原体を腸管免疫系のリンパ球が処理する為です。また、実験でも日中の顆粒球はしっかり活動するとより増加して、それに呼応する様に夜間のリンパ球も増加する事が確かめられています。現代の様に運動不足と不規則な生活リズムはこの免疫のリズムを大きく狂わせてしまうのです。
老化のひとつに免疫の低下があります。年をと取ると共に心臓や肝臓など臓器の重量は低下しますが。中でも脾臓と胸腺は最も減少率が激しいものです。特に胸腺は思春期以降急速に縮み、40代にはピーク時の重量の10分の1程の重さになります。免疫力が自力で働き始めるのは生後3ヶ月頃からで、20歳位でピークになった後は低下の一途。をたどり免疫力は70歳頃には10%ほどに低下してしまいます。免疫機能は低下するのに自己抗体は上昇してしまうので自己免疫疾患も増えやすくなります。これはT細胞の教育を担っている胸腺の萎縮によって説明が付くでしょう。また食細胞による免疫力は年を取っても保っているのではないかと考えられていましたが、マクロファージではインターフェロンy(ガンマー)やインターロイキン1Lに対する反応が鈍くなって活性されない為サイトカインを産生する能力等が低下します。また殺菌作用や腫瘍障害活性も低下しています。この様に生体防御の第一段階の戦力が弱くなっている訳ですから日和見感染を含む感染症に罹り易くなります。60歳以上の直接の死因の半分は感染症裂症ですから高齢者にとって最もも恐いのは感染症だといえます。
子供が初めて麻疹に罹ると、全身の皮膚や肺の細胞にウイルスが到達し、全身に発疹が出ます。やがて治れば、原則としてその子は以後麻疹ウイルスには感染しません.B細胞やT細胞は、侵入した「外敵」に対応したレセプター(抗体分子)を備えていて、その一部は数ケ月から数年の寿命を持ち、免疫記憶を担当するメモリー細胞となります。そして再度の侵入にしては、すぐに抗体やキラーT細胞が作り出され、麻疹の症状を呈する前にウイルスは排除されます。免疫記憶がどれ位の期間維持されるかというのは「外敵」の種類によって異なり、麻疹の場合は数年、普通の風邪はせいぜい1年程度しか維持されません。数年しかメモリーが維持されない麻疹になぜ「二度なし現象」があるかといえば、それは免疫記憶が更新されるからです。運転免許証の書き換えの様に、有効期限内に新たな麻疹ウイルスの抗原刺激を受ける度、メモリー細胞が即座に対応し、抗体や感性リンパ球が作りだされ、その時メモリー細胞も新しく生まれ変わります。ところが最近では、子供の時に麻疹を経験していても、自分の子供が麻疹に罹った時、-緒に罹る親が見られる様になりました。少子化や核家族化等により感染の機会が減り、免疫記憶の更新を受ける事が少なくなったと考えられます。
腸管は食べ物の消化吸収という過程で病原体の侵入が容易いなだけに腸管免疫系と呼ばれる特殊な防衛機構が備わっています。腸管粘膜面には粘液分泌、繊毛運動、上皮剥離等による機械的バリアーがあり、粘液にはラクトフェリン、リゾチーム、胆汁酸などの液性防御因子や好中球やマクロファージ等の細胞性防御因子があります。更に粘膜面では既に常在菌の持続的な刺激によって多量の分泌型lgAが産生されていて微生物と結合して、微生物が腸管粘膜に付着、侵入する事を防いでいます。この様に粘膜面の生物学的あるいは機械的なバリアーを突破しても、腸管には特殊なリンパ組織(GALT)がその後に控えているのです。このGALTには非業合性組成と集合性組成があります。この中で非集合組成には腸管上皮細胞の特有のリンパ球やT細胞が存在し、その下には粘膜固有層があり免疫細胞をストックしています。また集合組成としては腸管の断面を見ると消化吸収を司る器官の聞に挟まってリンパ節があり、これがバイエル板というリンバ系組織です。更に腸間膜にもリンパ節があり、これらが腸管の免疫系の中枢的な存在です。この様に腸管は幾重にもわたる防御機構によって守られているのです。
呼吸器と消化管は常に細菌等の異物と闘っていますが、戦いに使う武器は場所によって違います。まず肺胞ではマクロファージや好中球が活躍します。マクロファージは食菌力、好中球は殺菌力で闘います。マクロファージは細菌でもゴミでも、とりあえず何でも取り込んで無害化します。ところが腸ではマクロファージを中心に使う事は出来ません。マクロファージだと腸内の善玉菌も栄養物も異物とみなして食べてしまう事になるので敵か味方かを識別出来る免疫力が必要となるのです。つまりここでの武器は抗体です。抗体であれば栄養分や善玉菌とは結び付かず赤痢菌等の病原菌だけを殺す事が出来るのです。また異物と接する場の違いだけで無く病原菌の違いによっても活用される免疫も違ってきます。例えば肺でも肺炎菌に対してはマクロファージでは無く、好中球や抗体で闘います。この好中球も肺炎菌や緑膿菌は殺しますが、結核菌やカリニ肺炎菌は殺す事が出来ず、T細胞系の力が必要です。例えばエイズの末期では免疫力がガタガタになって結核やカリニ肺炎等の日和見感染で命を落とす事が多いのですが、ダメージを受けているのはT細胞系で好中球は保たれているので肺血症にはなりません。一方抗癌剤などで骨髄がダメージを受けると造血機能が落ちるので好中球等が減少するため敗血症や肺炎等になるのです。免疫は場所と相手によって戦略も違っている訳です。
光は透明な所で無ければ通過出来ません。ですから目玉も角膜から入った光が網膜に届くまでの間を硝子体と言う透明な物質で満たしています。もちろん目にも栄養は必要ですから、眼球の周りを包んでいる膜(虹彩、毛様体、脈絡膜を作っているブドウ膜)を通して栄養物質が補給されるのですが、その時酸素やグルコース等必要最低限の透明な物質だけを濾過して供給しているのです。つまり血管や赤血球はおろか白血球ですら光を真っ直ぐに通さ無くなるので、膜を通過させずに硝子体を透明に保つ事を優先させているのです。と言う事は眼球の中には免疫が届か無いと言う事になります。ですから細菌等にとっては最適の場所となる訳で、怪我や病気で目に細菌等が入れば大変になります。点滴で栄養を入れる中心静脈栄養等で真菌等が入った場合、他は何とも無いのに目だけが真菌性の眼内炎を起こす事もあり得るのです。しかし免疫が働か無いと言う事は拒絶反応が起こら無いと言う事でも有り、HLAの適合を考え無くても良いので角膜の移植にとってはやり易い事になります。角膜移植が早くから実用化されていたのはその為と言えます。
免疫反応は寄生虫や細菌、ウイルスといった種の大きく異なる抗原に対してより強く起こります。全て蛋白や糖質等のかなり大きな分子に対して反応するのです。しかし人間のアレルギー反応の中には、アクセサリー、義歯などに使用される金属冠に対して起きる金属アレルギーが有る事もよく知られています。しかし金属の分子は蛋白や糖質の分子量何千何万に比べるとケタ違いに小さくて、免疫系の受容体は金属分子を抗原として認識出来ません。外から最初に入ってきた細菌やウイルス等の抗原はまずマクロファージの中で消化されてペプチド化し、次にマクロファージ自身の主要組織に適合する分子(MHC分子)にくっついた物だけがT細胞の受容体と反応します。抗原だけでもMHC分子だけでも反応は起きません。ところがここに金属分子が入ってくるとマクロファージ自身のMHC分子の中に組み込まれてしまい、元々は全く抗原性の無かったMHC分子の立体構造を変えてしまう事が分りました。金属によって形を変えられた自分自身が非自己と認識され抗原となるのです。厳密には金属は抗原ではありませんが、マクロファージの蛋白分子に抗原性を持たせる事の出来る物質なのです。