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血栓が起こる要素は、血流と血液性状と血管壁の変化によって起こります。血液の中の血漿には凝固抑制因子の物質や蛋白質の繊維素であるフイブリン網を溶かすプラスミン等があり、血が固まらない様にしています。また、正常な血管では抗血栓活性がありますが、それは血管内皮細胞に血小板凝集抑卸、凝固阻止、フィブリン溶解等に関わる物質があるからです。このように絶えず血液が固まらない様に万全の備えが出来ているのですが、動脈硬化が進行していく過程において、血液が固まるリスクが次第に増えてしまいます。血栓が出来やすくなるのは血管壁の肥厚や狭窄によって血の流れが不規則になる事と好発部位である分枝の所や曲がった内壁に絶えず力学的な力が加わる事が挙げられます。また、内皮細胞自体も障害されて行きますので抗血栓活性が低下していきます。更に動脈硬化の部位の粥腫(プラーク)が破裂したり、裂け目が出来ても血栓が起こります。それは血波の中の血漿成分が粥腫の中に沢山集まっているマクロファージと接触する事になりマクロファージ上にある血液凝固外因系が作動してしまうからです。この典型的な症状が急性心筋梗塞なのです。
狭心症は一過性心筋虚血に原因する胸痛症候群の事です。一般的には心筋梗塞は危ないが狭心症は大丈夫だと言う考えが流布されていますが、そうとも言い切れません。虚血の原因は冠動脈アテローム硬化による狭窄があり、運動や精神的な興奮により心筋酸素需要が増大して、冠動脈への血流が足り無くなり発作が起こります。それ以外に、冠動脈痙攣縮による機能的な狭窄もあります。狭心症と言っても軽い物から致命的な物まで色々です。放つて置くと無症状期から安定狭心症期、不安定狭心症期に移行して、急性心筋梗塞症や心不全に至り死とする恐い病気なのです。改善法は薬剤では冠動脈拡張の為のニトログリセリンや血小板凝固抑制剤等を使用します。また、外科では冠動脈バイパス手術やカテーテルを用いた経皮的冠動脈形成術やバルーン療法等があります。現在は狭心症の進行の様子は心臓カテーテル検査や冠動脈造影で病変の状態が良く分かりますので、定期的な検査が何より大切です。しかし、冠動脈の狭窄を起こす原因である動脈硬化の5大リスク因子(高血圧、高コレステロール、喫煙、肥満、糖尿病、)と共に高尿酸血症、甲状腺疾患等の基礎疾患を改善しなければ、確実に進行していくのです。
脂肪は水に溶け無いので、水に馴染む蛋白質と結び付いて血液中を運ばれます。この蛋白質と結び付いたトリグリセリドやコレステロール等がリポ蛋白です。リポ蛋白は大きく分けて5っです。
●カイロミクロン
一番大きいリポ蛋白。比重0.95。トリグリセリド85~90%。コレステロール6%
●超低比重リポ蛋白(VLDL)
カイロミクロンの次に大きい。比重0.95より大きく1.006以下。トリグリセリド50%
コレステロール19%。リン脂質18%
●中間比重リポ蛋白(IDL)
大きさはVLDLの1/2。比重1.006より大きく1.019以下。低比重コレステロールになる。
●低比重リポタンバク(LDL)
いわゆる悪玉コレステロール。比重1.019より大きく1.063以下トリセリグリド10%。コレステロール45%。リン脂質23%
●高比重リポ蛋白55(HDL)
いわゆる善玉コレステロール。比重1.063より大きく1.210以下。トリグリセリド2~5%
コレステロール18%。リン脂質50%
疫学的に見て、糖尿病患者が心筋梗塞、脳梗塞、虚位桂心疾患、下肢閉塞性動脈硬化症等になる確率は、そうで無い人に比べて2~数倍の発症率になっています。糖尿病がどうして動脈硬化を起こすのかは最近ではインスリン抵抗性症候群という概念で説明しています。これは糖尿病になるとインスリン作用不足で、筋肉での糖の取り込みが低下します。その為に糖代謝を補う為に代償的に膵臓でのインスリン分秘が亢進し、高インスリン血症が起こるのです。インスリンの作用不足が起きるとリポ蛋白リバーゼ活性低下、肝臓でのVLDL合成亢進、LDL受容体活性低下が起きて脂質の代詩異常を起こします。また耐糖異常で高血糖を起こし、血管内皮細胞機能を傷害したり、糖化による蛋白変性をもたらし、動脈硬化が進みます。更に高インスリン血症ではそのインスリンが腎尿細管におけるナトリウムの再吸収を促進し、血管壁平滑筋細胞を増値して高血圧の原因になるのです。糖尿病における動脈硬化の子防は血塘値のコントロールだけで無く、インスリンによる代謝の正常化も問題になって来るのです。
男性に比べて女性は動脈硬化を起こしにくく、冠動脈疾患の発症は成熟期の女性で男性のおよそ10分の1程度です。これは女性ホルモンのエストロゲンの分泌により守られている為ですが、更年期を迎え平均55歳を過ぎると女性の冠動脈疾患も増え、高脂血症の頻度もぐんと高くなります。しかしそれでも男性の半分以下です。古くからこの事は知られていたにも関わらず詳しく検討される様になったのはつい最近の事です。エストロゲンには脂質代謝改善効果があり、HDLコレステロールを増加させ、LDLコレステロールを減少させる事が知られています。しかし、エストロゲンレセプターの血晋平滑筋細胞や内皮細胞における作用機構はまだ充分に明らかになってはいません。Stampferらが48.470人のの閉経後の女性について10年間の追跡調査を行った結果、低容量のエストロゲン補充療法で冠動脈疾患の発症が減少したと報告しています。日本の研究では、労作性狭心症の患者にエストロゲンを舌下に含ませると、運動をしても心虚血が起こるまでの時間が長くなる事が報告されています。また、米国の心臓学会でも、エストロゲンの作用でアセチルコリンが冠動脈をより拡張させるという研究結果を報告しています。ただ子宮内膜がエストロゲンにより異常増殖し子宮体癌を引き起こす確率が2~8倍にもなるそうでエストロゲン療法では子宮体癌のリスクが高くなる問題があります。
血管新生は通常は既存の毛細血晋から新しい血管が生まれる現象です。正常な状態では女性の生理過程等で起こりますが、組織が病的な状態になっても起こります。最も知られているのが癌の増殖や転移の時ですが、他にも糖尿病性網膜症、リウマチ性関節炎等でも見られます。動脈硬化の場合血管の外膜と内膜へ栄養を供給する血管栄養血管(毛細血管)から新たに血管新生が起こって来ます。すると血管の内側にある内皮細胞は増殖を開始して肥厚して行きます。この血管新生は、促進因子と抑制因子のバランスが崩れて促進因子が優位に立った時に起こります。促進因子は沢山ありますが、その中でも重要な物が2つあります。1つは動脈硬化の進行の過程において、毛細血管の内皮細胞にある特異的な増殖因子である血管内皮増宿因子(VEGF)が活性化する事が明らかになっています。もう1つは動脈硬化の血告部位は局所的に虚血になる為低酸素状態になりますが、その酸素濃度の低下も重要な因子なのです。癌を始めとして生活習慣病の行き着く先にある動脈硬化もこの血管新生が深く関与している訳です。
動脈硬化の予防や改善には何と言っても高脂血症になら無い事で、中でもコレステロールのコントロールが第一に挙げられます。コレステロールを多く含む食べ物といえば卵を筆頭にレバー、魚卵などで、既に高コレステロール値が高い人はこれらを多食する事は避けた方が良いでしょう。しかし実はコレステロールが食物から摂取されるのは全体の10%程度に過ぎず、90%は体内で作られます。ですから食べ物のコレステロール値に神経質になるよりもコレステロールが体内で作られるのを抑えたり、排除したりする事がより合理的だと言えます。コレステロールは胆汁酸の材料としても利用されますが、役目を終えた胆汁酸は再び回収されて再利用されます。ところが食物繊維はこの胆汁酸を吸着して排泄しますから、結果的に体内のコレステロールの色を減少させる事になります。つまりコレステロールを減らすには食物繊維を多く摂らなければなりません。またコレステロールだけで無く脂肪の量その物を減らす事も大切です。同じ脂肪でも魚脂に多く含まれている多価不飽和脂肪酸のEPA(エイコサペンタエン酸)やDHA( ドコサヘキサエン酸)などにはLDLを低下させてHDLを増加させる働きがあります。更に血液をサラサラにして血栓を出来にくくし、中性脂肪そのものも減少させる事が出来るので動脈硬化を改善する脂という事では魚が一番です。ただ、EPAやDHAなどの不飽和脂肪酸は酸化しやすいので、鮮度の良い物を選ぶ必要が有りますし、過度に熱を加える科理法は遥けた方が得だと言えます。最も身体に良いとは言っても脂ですからカロリーは高いのでご注意を。またLDLコレステロールを酸化させない為の抗酸化物質としてはこれまで知られているピタミンC、ピタミンE、カロチン等と共に、緑茶、紅茶、赤ワイン、ココアなどのボリフエノール類は有効です。色んな種類の抗酸化物質を少しずつ万遍なく摂取する事です。
太っているからと言って必ずしも動脈硬化に成るとは限りません。動脈硬化を起こしやすい家族性高コレステロール血症の人は痩せた人が多いと言う事が知られています。ただ太った人は高血圧や糖尿病になり易く、動脈硬化の危険因子を持っていると言えます。最近では太り方が問題で、これには皮下脂肪型と内臓脂肪型とがあります。皮下脂肪型は女性に多く、内臓脂肪型は男性に多いのが特徴で、動脈硬化症に問題があると言われているのが内蔵型です。内蔵肥満とは腸間膜脂肪による肥満で、皮下脂肪に比べて代謝活性が高く、過栄養時に脂肪合成が速やか起こり、また運動時や低栄養時には脂肪分解がより活発に起こる事が分かっています。内臆脂肪が多い人では脂肪合成と分解が活発に行われて、その結果内蔵脂肪の容量に応じて遊離脂肪酸が多量に放出されます。その放出された遊離脂肪酸は、門脈を介して肝臓へ流入し、トリグリセリドに再合成され、コレステロールが 高くなり高脂血症の発症に関連します。また脂肪組織は単なるエネルギーの貯蔵組織だけで無く、特に内臓脂肪からは血栓形成促進因子、サイトカインやその増殖因子などの生理活性物質が分泌されます。これをアディポサイトカインと呼び、分秘臓器としての脂肪組織が動脈硬化に関連しています。
粥状動脈硬化を作っている弼状部分は大部分がコレステロ-ルで、中性脂肪(トリグリセリド)の物は蓄積されていません。その為これまで動脈硬化と中性脂肪との関係はあまり重視されてきませんでした。しかし中性脂肪の値が高くなっても様々な代謝異常が発生して、それが動脈硬化に結び付くと言う事が分かってきたのです。一般に中性脂肪と言われる物は血液中ではカイロミクロンや超低比重リポタンパク(VLDL)として存在します。食物から摂取された脂質は肝臓に行く物と、小腸で再合成されてカイロミクロンになって代謝される物とに分かれますが、このカイロミクロンは次々に代謝されてLDLになって行きます。本来、LDLは最終的に血管の内皮細胞のLDLレセプターに結び付いて分解され、細胞膜やステロイドホルモンの合成等に利用されて行くのです。LDLを肝臓に持ち帰るいわゆる善玉コレステロールと言われているHDLは、肝臓で合成されると共にカイロミクロンがLDLへと代謝されて行く途中でも生成されるので、中性脂肪の代謝はHLDの量にも影響してきます。現に高脂血症では低HDLコレステロール血症を伴う事も多いのです。その代謝の途中の中性脂肪に富んだ物質はLDLその物より動脈硬化を起こしやすいという報告もあり、中性脂肪のコントロールは現在考えられている以上に重要かもしれません。
血管壁の石灰化はどの動脈硬化の病変にも見られる現象ですが、一般的には老化によって起こるメンケベルグ型硬化(中膜石灰硬化)が知られています。50歳以上の人に多く、動脈壁の変性や壊死過程と理解され、血流を障害するほどの狭窄にはならない為従来はあまり重要視されていませんでした。つまり、動脈硬化の形成過程で最も重要な事はコレステロール代謝異常や平滑筋細胞の遊離や増殖であり、石灰化はその-過程の副産物の様に考えられていたからです。ところでI9世紀中頃に近代病理学の礎を築いたウィルヒョ一はこの血管石灰化が骨形成過程と類似している事から、アテローム硬化は石灰化過程では無く骨化過程であると指摘していたのです。その根拠は動脈壁に骨髄を伴った骨梁骨がある事を観察したからです。150年も前の観察は忘れ去られていたのですが、最近になって石灰化が骨形成過程に類似しているデータが次々出て来て、石灰化が骨形成と同様に能動的な因子によって調節されている可能性が出て来たのです。この事から石灰化を力ルシウム調節ホルモンによってコントロールで出来るかもしれないし、病変部の平滑筋細胞が骨芽細胞へ分化するという仮説も出て来ているのです。