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脊髄損傷による麻庫と言えば、交通事故です。転落事故やスポーツ等でも脊髄損傷を起しますが、多くは自動車事故特に若い人のバイク事故で、かなりの頻度で頚椎を損傷し、手足の麻痺を起します。脊髄損傷には完全損傷と不完全損傷があります。
また、どの部位が損傷したかによってどのレベルの支配神経が麻痺するか違う訳ですから、病態によってリハビリの目標は変わっていきます。
特に完全麻痺の場合では、頚椎骨の一番の違いで機能残存筋が変わっていきます。しかし頚椎3番より上の頚椎での損傷では首から下の機能残存筋はありません。
胸髄、第2腰髄と下位に降りて行くに従って機能残存筋が増えて行きますので、リハビリによりADLの向上はより可能になります。
また、頚髄損傷や胸髄損傷の場合、事故直後から急性期にかけて注意しなればならないのが呼吸器合併症です。
これは、肋間筋等の呼吸補助筋群の麻疹により痰の排出が上手く行かない為に起こります。
いずれにしても、脊髄損傷の部位により、その後の生活は大きく変わってしまいます。
特に男性の場合、中々人には言えない切実な問題はセックスが出来無くなった事や子供が作れない事でした。
ところが最近話題になっているバイアグラによって勃起が可能になったという報告や、電気刺激や振動刺激で射精が出来る様になり、人工授精による妊娠、出産の事例も出てきました。
これらは外国の事例ですが日本でもこの分野が注目されてきましたので脊髄損傷の患者さんには朗報です。
神経麻庫には末梢神経麻痺と中枢性麻痺があり、その回復過程は前者では筋力を上げるという事で量的変化であり、後者では巧緻性や動きを良くするので質的変化(および量的変化)と言われています。
片麻輝の運動障害(運動麻痺)は中枢性麻痺ですが、その回復過程には正常では見られ無い共同運動パターンと言う異常な筋肉の運動が四肢に出現します。
例えば屈筋共同パターンがあると腕を曲げようとすると、肩、肘、手関節が屈曲状態になってしまい、肩あるいは肘関節だけを伸展する事が出来ないのです。
この運動パターンの特徴は屈筋共同パターンと伸筋共同パターンの基本的な二つパターンです。
この運動は正常な新生児に特有に見られる原始的な脊髄レベルの反射、反応の運動統合の現れと考えられています。
随意的な動きが少し入っているのですが、-定の固定したパターンの動きしか出来ないので不随意的と言えます。
回復過程では一旦その運動パターンが主体となりますが、回復が進むにつれて異常な現象が弱くなり、徐々に随意性の高い状態に戻って行くのです。
しかし、中枢性麻痺を放置したり、誤った訓練をすれば異常な共同運動パターンが強化され質的に向上されません。
例えば屈曲パターンの状態でバケツを持ち上げる訓練をすると屈曲運動が強化され、腕の伸展運動に障害が出て、回復過程から遠ざかってしまうのです。
向上する為には、その回復する過程で出現した共同運動パターンを、反射運動等の神経生理学的理論を用いて、障害された神経、筋機能を再調整し、出来るだけ円滑に正常な随意性の高い運動にする為のリハビリが行われます。
安静が続くと、筋肉や関節等の局所的な廃用症候だけで無く全身性の廃用症候が起こります。
その申で最も注意すべきなのは起立性低血圧で、言ってみれば立ちくらみのひどいものと言えます。
普通健康な人は起きあがった時でも姿勢血圧調節反応によって頭の方にも充分血液が流れる様な調節機能が働いていますが、畏く寝ている状態が続くとこの機能も弱くなっていきます。
しかも立ちくらみの様に急激な貧血状態が起こるというより、座っていても血圧が少しずつ低下して非常な疲れとして感じられる等の症状が多いのです。
長く寝ていた後等座っているだけでも非常な疲れを訴える場合、筋力の衰えのせいだけでなくこの起立性低血圧である事が多いのです。
起立性低血圧を防ぐには1日4時間以上、座る姿勢も含めて身体を起こしている事が必要です。
また血圧調節機能に限らず心臓の機能も落ちていきます。心臓の機能の低下では1回拍出量の減少が顕著で、ちょっとした動きでも動悸がする様になり、この場合も非常に疲れやすさを感じます。
肺の機能低下では呼吸する力が弱くなったり、痰が溜まり易く排出する力が弱くなる為肺炎を起こしやすくなります。
こうした全身性の廃用症候群を予防するにはまず座る事が大切です。
座るという動作は寝ている事と変わらないと考えがちですが、心肺や血管の廃用症候群から守る為には大変必要な事です。
ベッドの背を持ち上げるだけでも座る事の第一段階として有効ですし、ベッドの端等に座る端座位は立ち上がりの前段階として必要なのです。
人が死んだら間も無く筋肉がこわばり、関節等が動かせ無くなります。いわゆる死後硬直とか死体硬直と言われる現象です。
死直後の筋肉は一旦弛緩しますが、死後硬直は2時間位で起こり始めて6~8時間で全身に及びます。
普通頭や顔面から起こり、上肢から下肢へと起こって行きます(ニステンの法則)が、CO中毒や衰弱死等の場合はまれに下肢から上肢へと起こる事もあります。
最も強く硬直するのは10~12時間位で、それが48時間ほど続き、その後は硬直が無くなる緩解と呼ばれる状態になって行きます。
この変化は気温等環境の状態や筋肉質かどうかの違い等に影響されます。
死ぬ時に激しい筋肉疲労や緊張などがあると硬直が速くなります。
弁慶の立ち往生等と言うのは即時性硬直とか強硬直性硬直等と呼ばれ、死亡と同時に急激に死後硬直が起こった物です。
さて死後硬直は筋肉が収縮して硬くなるのではありません。
生きている筋肉は伸縮に必要なエネルギーをATPから得ていますが、死亡するとそのエネルギーが滅少し、その結果筋線維のアクチンとミオシンが不可逆的に結合してしまうのです。
その後腐敗が起こり、筋肉内の蛋白結合が破壊される為に緩解が起こり死後硬直は無くなってゆきます。
怪我や病気で肉体の一部が失われた時、人体が再生するには形の再生(形態再生)と働きの再生(機能再生)があります。
肝臓の様に半分以上取り去っても形態や機能が再生する組織は少なく、大きく欠損すると形は整える事が出来ても、機能の回復は難しいのが現状です。
特に筋肉は失われた部分が自己再生する事は無く、自分の身体の他の部分から移植したとしても運動機能は回復出来ません。
筋肉は栄養血管と運動神経が無ければ元通り動く事は出来ず、現在の医学では血管は筋肉ごと移植出来ても運動神経は移植出来ないからです。
しかし、例えば指や手首を切断した様な場合、切れて直ぐ等条件が揃えば元通りに動かす事は可能です。
血管と神経を手術で繋げば、血管は活着し、神経は末梢側は死にますが15cm程度なら中枢側から新しく伸びて行くからです。
筋肉に比べて筋膜や腱はコラーゲン線維で出来ていて、血管や栄養もそれほど必要としない事から移植は簡単です。
筋膜はやや伸縮性があり腱は緻密な線維で伸縮性はほとんど無く、両方共丁度裁縫での布や紐のように用いられ、身体の中で穴の開いた部分を塞いだり、たるんで下がった物を引き上げたりします。
顔面神経麻痺で麻疹して下がってしまった部分を吊り上げるのに、腱や筋膜の移植をして機能を回復させる手術はよく行われます。
筋原線維はミオシンとアクチンの蛋白質で構成され、その相互作用によって収縮します。
そのミオシンの分子の内、重鎖と呼ばれる部分が機能的な特性を決めている事が研究で分かって来ました。
重鎖には3種類あり、最大収縮度で比較すると最も遅いI型線維である遅筋線維、その10倍の速さで収縮する最速線維と、その中間速度の筋線維の2種類を含むⅡ型の速筋線維があります。
世界レベルの短距離走者の筋線維割合は遅筋が20%、速筋は中間速度が45%、最速線維が35%です。逆に遅筋線維が90%の人はマラソン選手に向いています。
短距離ランナーには最速線維が重要ですが、その線維を増やす方法があります。ウエートトレーニングの様な負荷を繰り返しかけると最速線維が減り、中間遠度の線維に転換します。
激しい運動を約1か月以上続けると最速線維は完全に中間速度の線維に変わり、運動を止めると今度は増加した中間速度の線維は最速線維に逆戻りするのです。
しかし最速線維の相対量は運動を止めると3か月後には元の量の約2倍に増え、その後元の量に戻ります。
この最速線維のオーバーシュート現象(度を超えて出来る現象)のメカニズムはまだはっきりと分かっていませんが、トレーニングをして中間速度の線維を増やし、大会のスケジュールに合わせトレーニングの量を減らして最速線維が多くなる調整法をするのです。
オリンピックを始め大きな競技大会では、筋肉増強剤等不正薬物を使用する一部の選手がこれだけ検査が厳しくなった今も検出される選手が時として出ます。
筋肉増強に使われるのは主に蛋白同化ステロイドホルモンや男性ホルモン、あるいは性腺刺激ホルモン等です。
これらの禁止薬物が摘発されれば、また新たな薬物とそれに対する新たな検査法の開発とのイタチごっこが繰り返されています。ところが近い将来、選手が遺伝子を受ける様になると、検査では検出出来ない時代が来ると言われています。
遺伝子は現在ほとんどの先進国で研究が進んでいて、例えば病気を治すのに今までは薬を投与していた代わりに、生体が病気と闘うのに必要な蛋白質を体内で作るメカニズムを誘発します。
つまり新たな蛋白質を作る人工遺伝子を体内に投与すれば、生体は病気の元となった欠落した遺伝子を補おうと働くからです。
筋肉増強に用いるには、その入工遺伝子を筋肉に直接注射する事でよく、筋線維は人工の遺伝子を取り込み、通常の遺伝子群に加えるのです。
注射は1回で効果を発揮し、しかも人工還伝子が作り出す蛋白質は通常の蛋白質と同じなので、不正を発見する事は困難です。
人工遺伝子を検出するには、その遺伝子の塩基配列を知っている事と、それを用いた選手の人工DNAを含む組織のサンプルが無ければ不可能です。
大会前の選手に筋肉組織を提出させる事は困難なので、結局遺伝子ドーピングは見つから無いと言われています。
トレーニング等によって筋力がアップするのは、1本1本の筋線維が太くなるからだとみなされていました。
いったん出来た筋線維は核分裂が起こりませんから、筋線維は太くなる事はあっても数が増える事は無いと考えられていたからです。
しかし、実は筋線維も増殖する事が分かっています。
その主役となるのがサテライト細胞です。サテライト細胞とは筋線維を包む膜にある、いつでも筋線維になる事の出来る予備の細胞です。
人が胎児の時、筋の素となる筋芽細胞がいくつも合体して1個の筋線維になって行くのですが、その過程で筋線維になる事が無く残ってしまった筋芽細胞がサテライト細胞なのです。
ですから筋線維は多くの核を持っていますが、サテライト細胞はくっ付きそびれた筋芽細胞のままなので、核は1つしかありません。
そのサテライト細胞は普段は何事も無く大人しくしています。
トレーニング等によって強度の負荷が筋にかかると、筋は断裂等の傷害を受けます。
すると成長因子が出て筋線維やサテライト細胞に信号を送ると、サテライト細胞は蛋白質の合成を活発にして成熟して行くのです。
このサテライト細胞は新しい筋線維になる事もあれば、既にある筋線維とくっ付く事もある様です。
サテライト細胞はある程度核分裂するものの、回数に限りがあって老化と共に数は減って行きます。
内臓は自律的に動いていますが、例外的に肺臓だけは骨格筋の力を借りなければ呼吸運動が出来ません。
この肺は元々発生の過程で内臓由来の鰓腸(さいちょう)の壁が少しづつ膨らんで行き、風船玉の様になって、その壁の内臓筋はほとんど機能出来無くなり肺自体が伸縮出来無くなった為なのです。
これの肺が出来て行く過程は海から陸に上がる進化の過程と一致しています。
ですから陸上の動物は、頚から胸にかけての骨格筋を代替的に使う事になったのです。
この運動を円滑にする為に胴体を膨らませて内部に陰圧を作り、これによってスムーズに空気を呼び入れて、次ぎに胴体を収縮させて陽圧を作り、肺の弾力性によって空気を追い出す様に変わって行ったのです。
哺乳類は更に胸郭自体を広げたり、収縮させて、つまり肋骨が内外の肋間筋によって上下する胸式呼吸と横隔膜を上下させる腹式呼吸が出来る様になったのです。
胸郭を広げる筋肉群として胸鎮乳突筋、大胸筋、小胸筋、僧帽筋があり、胸郭を下げる筋肉として外腹斜筋、腹直筋等があります。
また腹式呼吸の横隔膜は胸郭の下に位置していますが、支配神経は頚神経です。
これは横隔膜が頚部に発生し、それが発生の途中で下降した事を示してます。
ですから、横隔膜は骨格筋由来の物なのです。慢性的な肩こり等で胸郭の運動が悪くなると呼吸に影響を与える事は当然の事です。
ですから現代人は腹式呼吸をしっかりマスターする事が大切な訳です。
特に女性の方は子宮もあり腹腔の容積が小さいので胸式呼吸が多く、ある程度修練しないと身に付きません。
血液を毛細血管まで送り出すには心臓の力だけでは無く筋肉のポンプ作用(ミルキングアクション=牛の乳搾り)が必要です。
例えば上腕を曲げると上腕二頭筋が収縮して力こぶが出来ますが、その圧力は内部にも加わり、その力で筋膜の中を走る毛細血管も圧迫され、血管の中を流れる血液が押し出されます。
逆に筋肉を伸ばせば、その圧力から解放されて血管が膨らみ血液を吸い込む事で循環しているのです。
その為筋肉が第2の心臓と言われていますが、全身の骨格筋の約7割が下半身にある事から、脚が第2の心臓とも行われています。
脚の位置は心臓から最も離れ、更に重力も加わる中で、血液循環出来るのは逆流を防ぐ静脈弁の働きもありますが、この筋肉による筋肉ポンプが重要な役目をしているからです。
老いは脚腰からと言われていますが、運動不足や、老化の為に脚の筋肉が衰え、更に全身の筋肉量が減って来ると、筋肉ポンプの作用も低下して心臓に負担がかかり血圧の上昇にも繋がります。
またエコノミークラス症候群が問題になっています。
飛行機の座席に長時間座っていた為に足の静脈に血の塊が出来、歩きだすとその塊が血流に乗って肺の血管を塞ぎ呼吸困難や心肺停止を招く肺塞栓を起こすのです。
その予防は機内で足を動かして血流を良くするのです。
筋肉は身体を動かしたりするだけで無く、血液の循環にも重要な役割があるのです。