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動脈は段々細くなり最後には毛細血管になって栄養や酸素などの物質交換を行います。つまり毛細血管は新陳代謝を担う最前線といえます。
太さは5~10ミクロンほどで、赤血球がやっと通れるほどの細さです。
1秒間に50cmの速さで流れていた血液もこの毛細血管では毎秒1回とゆっくりした速さになります。
血管自体は内皮細胞の薄いシートでできていて、やりとりする周りの組織液の種類や量によって、細胞がびっしり詰まっているもの、穴の空いた物、更には隙間の多い物と様々です。
この毛細血管がきちんと働かないと、様々な障害が起こります。
毛細血管の壁の透過性が高くなったり血液の中の蛋白質が少なくなるとむくみが起こります。
毛細血管での血行障害の典型が冷え症や肩こり等で、これらの症状は女性に多いものです。
女性は子宮や卵巣等の複雑な臓器を抱えている為ホルモンバランスや自律神経のバランスを壊しやすい事、筋肉が少ない為筋肉によるポンプ作用が少なく熱を保ち難い脂肪が多い事等によって毛細血管の血行障害が起こりやすい体といえます。
赤血球が変形し難くても毛細血管を流れ難くなりますし、ドロドロ血液でも同様に血行障害が起こります。
肺循環は心臓の右心室から肺動脈に出て肺を経て肺静脈へ、そして左心房に帰ってきます。
これは常識ですが、その肺循環の所要時間がなんと4~5秒というかなりのスピードである事はあまり知られていません。
肺動脈は枝分かれして最終的には肺の膨大な毛細血管に到達します。この毛細血管を取り囲むように3~5億の肺胞が小さな泡のように並んでいます。
そして肺胞上皮と血管内皮細胞の厚さ0.5ミクロン以下の薄い接触面を通してガス交換がおこなわれます。
また、肺循環は体循環とは決定的に違う性質があります。それは肺の動脈は血圧が体循環と比べて著しく低いのです。肺動脈では25mm水銀柱なのです。
心臓から心臓までの距離が短い為に低い圧力でも血液を流す事ができますし、あまり血圧が高過ぎると毛細血管がトラブルを起こすからです。
その分、重力の影響を受けてしまいます。肺の上と下の毛細血管にかかる圧力は約2倍の差が出来てしまいます。
つまり体を起している時は、肺の血液は肺の下部を流れやすくなり、肺上部には流れにくくなるのです。
この不均衡があまり大きくなると血液が充分にガス交換されないで肺を通過してしまうため呼吸機能が低下します。
しかし毛細血管の圧力が高過ぎると、毛細血管から出血したり、周囲に大量の溶出液が染み出したりします。
また、肺循環では全身の生理機能調節にとっても重要な働きをしています。
特に神経伝達物質であるセロトニン、アドレナリン、アセチルコリン等が肺循環で不活性化されているのです。
この様な点からも、養生の基本に呼吸法があるのもうなずけます。
動脈は高い内圧に耐える事が出きるように3層構造になっています。
繊雄性組織からなる外膜があり、その内側に主として平滑筋で出来ている中膜があります。
そして、一番内側に内膜があり、その内膜には一層の血管内皮細胞があります。この内皮細胞は動脈だけでなく静脈や毛細血管やリンパ管系等、循環器系全般に広くある細胞です。
ところで、通常血管の収縮や拡張は自律神経系や血液中の液性因子が調節していると言われてきました。
つまり、末梢の細動脈では交感神経α受容体の刺激やアンギオテンシン等の血管収縮因子により収縮し、β受容体の刺激やキニン等の血管拡張因子によって弛緩するとその細動脈の収縮と弛緩により、末梢循環の抵抗性の強弱が生まれ、血圧や血流の体内分布等が調整されているというわけです。
この説明は間違っているわけではないのですが、他の原因として血管内皮細胞が注目されてきています。
この血管内皮細胞は従来血管壁に血栓が付着したり、血液が固まるのを防ぐ、いわばコーティングのような働きがあると考えられていました。
しかし近年の研究で、この内皮細胞が抗血栓性と血栓形成性の、拮抗する性質の生理活性物質を作る事が明らかになったのです。
例えば内皮細胞から放出されるー酸化窒素等の血管拡張物質は細胞の増殖を抑え、血栓を予防して動脈硬化を妨げます。
これに対して、エンドセリン等は逆の作用の血管収縮物質で、過剰に作られれば血管を傷付け、血栓を作り動脈硬化を進めてしまうのです。
つまり、この2つの拮抗する作用により、血管自体が循環のバランスをとっていたのです。
このバランスが崩れてしまうと、自ら血栓を作り動脈硬化を誘発する事も分かってきました。
この血管内皮細胞は循環のバランスだけでなく、免疫や代謝等も制御しているという研究もあり、現在注目される先端研究のーつになっているのです。
1990年代の始め、これからの10年間(つまり2000年頃までの間)で癌医療はどの様になるかを見通した調査があります。
癌専門家はこの10年間の間に基礎研究の分野で癌の全容が分かると予想する人が4~5割もいて、7~8割は2010年までには分かるだろうと考えていました。
診断の上で著しい進展があるとしたのはダントツが遺伝子診断で、ついでMRI、内視鏡、腫瘍マーカー等を有望視していました。
改善面では遺伝子療法と抗癌剤が最も有望視され、骨髄や臓器の移植、内視鏡手術、免疫系の活性化による方法も進むと予測していました。
全体的には10年前、癌の解明はすぐに手が届く所まで来ているという楽観的な見方がされていたといえます。
一方、一般有識者では遺伝子療法に対する予想は低く、手術と抗癌剤の併用、化学療法やレーザー療法が進展するだろうと考えていました。
特定の癌の決定的な検査法や抗癌剤が開発されて、大部分の癌が治癒可能になるだろうという見方も多く、癌専門医よりも更に楽観的な見方をしていた様です。
こうした事からみても癌医療の進歩の予測は楽観的になり易い事が分かります。
先進国では毎年死んで行く人の8割は60才以上で、平均年齢は70才以上になっています。
つまり多くの人が長生きをする様になり、若死には珍しい時代になって来たといえます。
日本での死亡原因の第1位は癌で、1950年代から急カーブを描いて増加し、これからも増えると予想されています。
癌は生活習慣と関連がありますが、原因は遺伝子の異常によるものです。
老化した細胞は遺伝子異常を起こしやすく、その意味では癌は老化の一面であるとも考えられる訳です。
人が長く生きればほぼ全員癌になると言います。
従って高齢者が増えれば当然癌の発生率も高くなる事になります。
現に老化による影響を補正して死亡率をみると、癌が増加しているとは言えず、男性では横ばい、女性では減少傾向になるのです。
つまり癌が増えているのは高齢者が増えた為で、高齢化は更に強まりますから、癌その物が無くなる事は無いと考えられます。
よく言われる事ですが、高齢者の癌は若い人の癌と進って、正常組織とあまり変わらない構造を保つ分化型の癌が多く、進行がゆっくりして転移も少ないという特徴があります。
生活に気をつけて癌になるのを伸ばしたり早期発見早期改善で共存しつつ逃げ切れば、癌でも天寿を全う出来るかもしれません。
抗癌剤の認可の条件は、実際の患者で薬を試す臨床試験で、2割程度の患者の癌が小さくなる事です。
現在100種程度が厚生労働省から認可されていますが、延命効果は認可後に改めて証明する事になるので、抗癌剤では、癌が縮んでも患者が長生きするとは限らないのです。
抗癌剤には、癌細胞の特徴である分裂が盛んな細胞を殺す薬が多いので、正常でも分裂が盛んな胃腸の細胞や、白血球や赤血球を作る骨髄の細胞を傷つけ、吐き気、下痢、白血球減少による免疫力低下、貧血等の副作用を起こします。
実際の患者で効果が証明された薬を適切に使わなければ、単なる毒薬となってしまうのです。
ゲノム解析が進んだ現在、人の遺伝子は基本的に同じですが実際には個人間で微妙な差がある事が分かってきました。
この微妙な差を多型と言い、数百個の塩基の中から遺伝子の中で塩基一つだけが異なっている事から、一塩基変異多型(SNPs)とよばれています。
このSNPsが個体毎に違う為に患者毎に薬剤の効果が異なるので、このSNPsが薬剤の効果のある患者を識別する薬理ゲノムに活用出来る事が判明したのです。
この事から、患者の癌の性質に合わせ、個別的な薬を作るという、オーダーメード医療が期待されているのです。
集団検診や人間ドックはすっかり定着していますが、一方で、忙しい、病院が嫌い(怖い)の理由で心配しながら検診を受けない人も多い筈です。
そんな人の為に郵便で検診を受ける方法があります。
大腸癌については保健所でも郵便で検査出来る様ですが、最近では検査方法や検体採取の方法に工夫が加えられて、様々な癌の自宅検診が受けられる様なシステムが出来ています。
スクリーニング出来る癌は胃癌、膀胱癌、大腸癌、肺癌、子宮癌などで、申し込めば検査キットや説明書、問診票が送られて来て、指定通り検体や問診票を送り返せば結果を知らせてくれます。
検体は内容に応じて血液、尿、便、痰、子宮分泌物等を送ります。
例えば胃癌検診では数滴の血液によって前癌症状である萎縮性胃炎のチェックをすると同時にヘリコバクター・ピロリ菌の抗体の有無を調べてくれます。
血液尿では前立腺癌も調べる事ができます。
大腸癌ではスティックに便を採って1日だけの分を調べる法と、繊維質を飲んだ後2日間に渡って便の表面に触れて調べる方法があります。
子宮頸癌は諭粘膜をこすったスポンジを送る事で検査します(子宮体癌の検査は腫瘍マーカキットしか出来ません)。肺癌は3日分の痰を採って送ります。
電話で話す事によって喉頭癌かどうかを調べてくれる所もあります。
いずれも大丈夫かどうかの検査なので確実な診断が出る訳ではありませんが、ひとつの目安として利用できるシステムでしょう。
癌の痛みは病状が進行するほど発生頻度が高くなり、しかも次第に増強するという特徴があります。
日本で今年癌で亡くなる約38万人のうち、少なくとも12万人は完全には除痛されないままの死を迎えているといわれています。
痛みを取り除くことは、末期悪者だけで無く全ての患者のQOLの改善をもたらす医療で、手術や放射稼療法といった癌を治す為の医療と対立するものではありません。
強い痛みの鎮痛薬としての医療用モルヒネの大部分が、癌の痛みに使われていて、各国での年間使用量が癌の痛みの軽減の進展度を示す指標になっています。
日本では、1999年医療用麻薬モルヒネ換算201㎏から比べると2010年5.736㎏と大きく年々数字を伸ばしているのに対して2011年には5.179gと逆に減っている年もあります。
国際比較でみると100万人1日あたりの消費量換算(モルヒネ、フェンタニル、オキシコドン合計)2007年~2009年のデータでオーストラリア1.502.2gアメリカ1.725.0gに対して日本96.8gといった国々に比べて、まだ少ない使用量です。
医療者の対応が遅れている事の原因に、一定の量以上を使ってはいけないとか、使う対象は予後の短い患者に限るといった過去の医学教育があり、日本の麻薬取締法が厳しかった事もあります。
また患者側も、癌の痛みには有効な方法が無いという誤解、医療目的の麻薬についての誤解、痛みは我慢するべきといった考えなどがあります。
しかし癌の痛みの軽減を要求する事は患者としての権利であり、充分な痛み軽減を行う事は医師の義務です。
痛みによる睡眠不足や食欲不振、病気への怖れや不安が取り除かれるならば、末期の癌患者でも家庭で安らかに過ごす事は充分可能なのです。
癌が治ったかどうかは、改善してからしてから5年間生存したかどうかで判断されます。
5年というのはその間に再発しなければ、その後の再発の可能性が少なくなるからです。
癌は発生部位や癌細胞の性質によって生存率に大きな違いがありますが、5年生存率では乳癌の90%を最高に、子宮体癌85%、他に喉頭癌78%、膀胱癌76%が比較的生存率が高く、結腸癌73%、直腸癌73%、胃癌70%いずれもステージⅣで大幅に低下します。
ですが多くの人が治る可能性が出て来たと言えます。これらは検診等で比較的早い時期に発見が出来る為に生存率が高くなった為とみられます。
卵巣癌、リンパ腫等の治癒率は40%以下です。全体では成績は向上していて、癌全体の5年生存率の平均が1997年は61.7%だったのが2005年では68.0%に向上しています。
特に乳癌、胃癌、結腸癌、直腸癌、白血病では治癒率の向上が目ざましいので生存率が上がっています。
ただし治癒率は癌のステージによって大きく違ってくるのは言うまでもありません。
早期の癌は小さいだけで無く、悪性度も低い事が多いので、とにかく早期発見が生死の分かれ目となります。
生存率が高いとされている癌でもステージⅢ、Ⅳの進行癌では生存率は極端に低くなります。
更に依然として生存率が低いのは、膵臓癌6.8%、肝臓癌32.1%、胆のう癌27.0%、肺癌40.6%、食道癌38.4%で、早期発見もし難く、5年生存率が低めの数値を示しています。
肺癌と共に急速に増えている癌が大腸癌です。
大腸癌は癌の中で食べ物との因果関係が割とはっきりしています。
勿論、ポリープや憩室の出来易い遺伝的体質や腸内細菌叢も関係していますが、大腸癌の最大の原因は脂肪の取り過ぎです。
40年前の日本人の脂肪摂取量は1日26gでしたが、5年前の統計では60gと倍に跳ね上がっています。この摂取量と正に正比例する様に癌が増加しているのです。
この食の欧米化により同時に食物繊維の量も減少してきました。
この二つのうち動物性脂肪がプロモーター(促進因子)で食物繊維はインヒビター(抑制因子)として大腸癌に関与している事が明らかになっています。
動物性脂肪と大腸癌との関わりは、小腸で吸収された脂肪は肝臓でコレステロールを経て胆汁酸になりこれが胆嚢に貯えられます。
また、脂肪を沢山摂取されるとそれだけ胆汁が多く十二指腸に放出されますので、相乗的に胆汁酸の量は増量されていきます。
大腸癌の多いアメリカ人の便中胆汁酸量は、日本人の3倍あると言うデータもあります。
この胆汁酸が大腸の中の悪玉大腸菌(腐敗菌)により二次胆汁酸になるのですが、これが大腸癌を促進する作用があるのです。
癌の中では早期に見つかると存命率が非常に高く、検診の効果もあり、最も予防しやすい癌とも言えるのですが、肛門からの検査に対する抵抗や症状が痔に似ている事がネックになって発見が遅れるケースがあります。