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胃癌の発生は食品、環境因子、ニトロソ化合物、癌遺伝子、EBウィルス、胆汁の逆流等の因子が発癌過程で作用していると考えられていますが、どの段階でどの因子が作用しているのかまだ解明されていません。
その中で消化性潰瘍の一要因であるピロリ菌(ヘリコバクターピロリ)です。ピロリ菌はウレアーゼという酵素を有する事が特徴で、胃内の尿素を分解してアンモニアを発生させ、自らアルカリ性の環境を作り胃内の強い酸から身を守って生き延びています。
このアンモニアが胃粘膜の障害を引き起こす一つの要因になっているのです。まだ仮説ですが、胃癌はピロリ菌の感染により、正常な胃粘膜に表層性胃炎を起し、感染の長期持続により萎縮性胃炎を生じます。
更に胃内低酸性状態がニトロソ発癌物質を形成し、この作用によって腸上皮化生、異型上皮、胃癌に至るというのです。
日本での感染率は40歳以上の人で約60~70%とされていますが、厚生労働省では1997年より「癌克服新10か年戦略研究事業の一環としてピロリ感染の早期発見とその除菌による胃癌の予防に関する研究」を開始しました。
今はピロリ菌の検査・除菌が医療保険の適用になりました。
肺癌の最大の危険因子は喫煙である事は確かです。
煙中のべンツピレンが体内に吸収されると、化学物質を分解するチトクロームP 450 という肝臓の酵素によって活性化され、DNAを傷つける力が非常に強い中間代謝物質に変化する事が明らかになっています。
しかし、肺癌の中で喫煙との因果関係が明らかになっているのは扁平上皮癌や小細胞癌ですが、一方で喫煙とは因果関係が無いと言われている腺癌も急速に増えています。
煙草以外の環境汚染による空気中の有害化学物質や生活習慣の中にその原因があると推測されていますがハッキリした原因は分かっていません。
また、肺癌の予後については、残念ながら5年生存率は他の癌より極端に低く、15%未満と言われ、癌の中でも存命率が非常に低い癌といえます。
二次予防である集団検診による効果も胃癌や大腸癌等の他の癌と比較しても早期に発見する事が難しい癌でもあります。
また、実際発見されても外科的切除適応は40%に満たないのです。
更に手術が成功しても、早期では無い肺門や縦隔リンパ節に転移をした物の予後は5年生存率で30%未満なのです。
何より早期に発見する事が大切なのですが、症状が風邪や気管支炎に酷似しているので、自覚症状として認識し辛い面があります。
しかも肺癌を疑う血痰やリンパ節腫脹等はかなり進行してから表れると言う厄介な面もあります。
肺癌に対する一次予防としては、やはり禁煙と大気汚染に注意する事や全般的に抗癌作用のある食べ物の摂取位しか今の所有りません。
がんがあっても、正常な細胞を悪質な癌細胞に変貌させるにはまだ至りません。
少なくとも3~4回の遺伝子変異が起こり、変異細胞が「無制限に細胞分裂する能力」「血管を新生する能力」「新しい組織に転移する能力」といった力を得て「悪性の癌」となります。
この中でも癌化には「血管を新生する能力」が、不可欠で、血管新生によって癌組織内に酸素や栄養を運び込んで大きく成長し、離れた組織にも血流に乗って転移します。
その為癌細胞の多くは血管新生を促す為に、血管内皮増殖因子や塩基性繊維芽細胞増殖因子等を生産します。
普通の成人で血管新生が起こる事は無く、例外として妊娠した女性の子宮内で胚が成長する時だけに起こります。
こうして癌組織が成長すると、今度は逆に「血管新生を妨げる因子」を分泌し始めます。
この血管新生阻害因子を分泌するのは、初めに出来た一次腫瘍だけで、大きく成長した一次腫瘍は、阻害因子を分泌する事で転移した二次腫瘍の成長を押さえ込むのです。
あたかも群を離れた仲間を攻撃する様に、利用出来る栄養を一人占めしようとするのです。
外科手術で一次腫瘍を切除すると、突然二次腫瘍が表れる事があるのは、血管新生阻害因子の分泌が無くなった為と考えられています。
血管新生を妨げる事が出来れば、これは有効な癌医療となるので、現在「アンジオスタチン」「インターフェロン」等、様々な血管新生阻害剤の臨床試験が進められています。
老化その物が癌に繋がる事は明らかです。国立癌センターの山口直人氏は、大体40歳から5年毎におよそ2倍ずつ癌のリスクが高くなると報告しています。
老化によって癌になる確率が高くなるいくつかの原因が考えられます。
まず、癌の発症には長い潜伏期間があり、短くても5年、長ければ20数年と言われています。
その間に年を取り、結果的に高齢者になってから発見される訳です。
また、老化と共に遺伝子を傷つける活性酸素によって作られた酸化物質が細胞のミトコンドリアから漏れて、それに対抗する抗酸化作用が上手く行かなくなります。
この様な状態が長い年月続けば、当然遺伝子の突然変異の頻度が多くなります。
元々、それを修復する遺伝子もあるのですが、それを修復する能力も老化によって落ちて来ますので、癌になる確率が高くなるのです。
また、癌や老化で注目されているのが染色体の末端にあるテロメアです。このテロメアは寿命遺伝子とも言われ、細胞分裂を繰り返す度に短くなっていきます。
テロメアが短くなると染色体上の遺伝子が非常に不安定になってきて、エラーを起し易くなり、その為に細胞がより癌化しやすくなると言われています。
このように高齢化によって癌化する確率は高くなるのですが、癌細胞も老化現象の中で毛細血管新生能力の低下が起こり、活発に増殖出来ずにゆっくりした物になります。
三大生活習慣病の中で癌が死因のピークを迎えるのは男性で60~69歳、女性で50歳前後です。
40歳を過ぎたら定期検診を受けたり、生活習慣の見直しに心掛けて、癌の予防と早期発見に努めるべきです。
遺伝子に突然変異をもたらす危険な物質は沢山ありますが、それ自体は変異原では無いのに癌を誘発してしまう物があります。
アルコールや肝炎ウイルス等がそうです。
細胞増殖する時DNAがコピーされますが、どんな細胞でも100万塩基に1回の割合でエラーが起こり、癌発生の第一歩となる可能性があります。
この確率は決して高い物とは言えないのですが、細胞が増殖する回数が多くなればなる程当然エラーが発生しやすくなります。
アルコールの場合、度の強い酒を多量に飲むと口や喉の細胞が死んでしまいます。
すると回りの細胞は分裂して補うように促され、増殖が活発になります。
その時タバコを吸うとタバコの煙は変異原ですからDNAのコピーはより一層エラーが多くなります。
増殖中のDNAはそうで無いDNAに比べて変異原の攻撃を受けやすいのでエラーの確率はずっと高くなるのです。
お酒を飲みながらタバコを吸うと口腔癌のリスクが30倍にもなるのはこう言う訳なのです。
一方肝炎ウイルスの場合、肝細胞はウイルスによって破壊されていきます。
正常な場合、肝臓の細胞分裂はさほど起こらないのですが、このような状況では強い増殖力を持つ肝臓は新しい肝細胞を作り続けます。
つまりこの肝炎ウイルスによって細胞分裂が盛んになるとそれだけエラーが重なって肝臓癌になってしまうというわけです。
つまり細胞分裂の活発な部位は癌にもなりやすく、それ自体は発癌性がなくても細胞の増殖を促すものは癌化に手を貸すとも言える訳です。
癌医療の化学療法や放射線療法は、癌細胞のDNAを破壊して殺す為に抗癌剤や放射線を利用すると言うものです。
しかし最近分かって来たところでは、これらの抗癌剤や放射線はDNAを破壊しているのでは無く、抗腫瘍因子の遺伝子p53を活性化させ、癌細胞にアポトーシスを引き起こさせて自死させていると言うのです。
p53はゲノムのコントローラーと言える意伝子で、化学物質やエラーコピーによってDNAに傷を負った細胞の増殖に、待ったをかける働きを持っています。
傷があまりにも大きければそのままアポトーシスに持ち込み、修復可能であればp53が作用して増殖を一時停止している間に別の修復装置が働きます。
このp53が働か無ければ細胞はどんどん増殖していく訳で、癌の半分位はこのp53の遺伝子が変異していると言うのです。
薬や放射線はDNAの破壊ではなく、p53を剌激して癌細胞を成長させない様にし、アポトーシスに持ち込んでいたという訳です。
ですからp53が全く機能し無くなったタイプの癌ではアポトーシスの状態に持って行く事が出来ない為に化学療法や放射線療法が効果を上げる事が出来ません。
その場合には別の方法をとらなければ意味が無いと言う事になります。
正常細胞が癌化する過程にはいくつものステップがありますが、どのステップの異常が癌化させたのかが分かれば無駄な治療をする事が避けられるでしょう。
正常な細胞には、無制限な分裂を抑える「細胞増殖のブレーキ」役とも言うべき、癌抑制遺伝子がいくつも備わっています。
代表的な癌抑制遺伝子には、DNAの損傷を修復する酵素蛋白を作る「p53遺伝子」や、細胞分裂を促進させるE2F転写因子を制御する「RB遺伝子」といった物があります。
細胞核内に1対づつある癌抑制遺伝子の両方が壊れて、初めて癌化が促進されるのですが、遺伝性の癌と言われる人は生まれながらに片方の遺伝子が欠失や変異しているので、癌になりやすいのです。
ところが最新の研究では、癌抑制遺伝子にまったく欠失や変異が認められないのに、機能していない為に癌が発生する事があると分かってきました。
遺伝子の塩基配列をコンピューターのハードに例えれば、どの遺伝子をいつ機能させるかというソフトが遺伝子の「機能スイッチ」にあたります。
癌抑制遺伝子の塩基配列が正常なのに機能しないのは、遺伝子の「機能スイッチ」が「オフ」になっているからで、このスイッチ役をしているのが「メチル基」という化学物質です。
炭素1個と水素3個からなり、塩基配列の内「…CGAT」のCの位置に取りついて「メチル化」して遺伝子の機能を止めます。
受精卵から各器官に分化、アポトーシス、成長と老化といった生命の機構にこのメチル化は深く関わっています。
いつどういう機序でメチル化が起きるのか、世界の癌研究で注目を集めている分野のひとつです。
がんを引き起こすウイルスには肝臓がんのB、C型肝炎ウイルス、バーキットリンパ腫や鼻咽頭がんのEBウイルス、子宮がんのパピローマウイルス、白血病のHTLV(ヒト白血病ウイルス)等がよく知られています。
これらのがんは癌を発生させる遺伝子を持っています。しかし、がん遺伝子だけが原因では無いと言う研究も出て来ているのです。
それはがんウイルスによって標的の臓器が慢性的な炎症になる事でがんの発症に関与していると言うのです。
ですから慢性的な炎症を起こすものはウイルスばかりで無く、細菌や寄生虫も挙げられます。
話題の胃がんの原因となるヘリコバクター・ピロリ菌や口腔内連鎖球菌のーつストレプトコッカス・アンジノズスが食道がんの原因ではないかと言われています。
更に膀胱がんは住血吸虫と言う寄生虫が関与している場合がある事も分かって来ました。
がんの原因の約10%はこのようなウイルスや細菌による慢性的な炎症によるのではないかと言う報告もあります。
最近では抗炎症剤は炎症を抑える効果だけで無く、同時にがんを抑制する事が分かってきました。
非ステロイド系の抗炎症剤のアスピリン等が大腸がんの発生を抑える事が出来ると言う報告もあります。
また、癌が出来てしまった為に、がん細胞から作られるサイトカインが炎症を起させ、その炎症によって益々がん細胞が増殖すると言う事も明らかになってきました。
従来は因果関係がハッキリしていなかった癌と炎症には深い関係がある事は間違いないところです。
厚生労働省に難病指定されている潰瘍性大腸炎が15歳から25歳の若者に急増しています。
欧米では約200万人、日本では84年には9100人でしたが、現在では約6万人になっています。
要因のーつと考えられているのが無繊維高脂防食ですが、近年の研究では自己免疫疾患が考えられています。
潰瘍性大腸炎は肛門に近い直腸から、大腸粘膜にビラン、潰瘍が全体に広がります。
この病気は大腸内に無数にある細菌が潰瘍によって崩れた大腸の粘膜を浸透し、粘膜内の顛粒球と接触し、顧粒球を活性化させ、これが大量に増えると更に大腸の粘膜を攻撃して潰瘍を作ると考えられています。
脂肪性の下痢が特長で、腹痛、下痢、血便を繰り返し、症状が進むと一日10数回の下痢血便が起きるのです。
改善としては炎症を抑える為に副腎皮質ホルモンが中心で投薬が行われますが、副作用で骨壊死、骨粗鬆症の副作用が強く出る為に長期間使用できません。
そこで最近の方法として、酢酸セルロースの粒子を使った騏粒球ろ過装置がかなり効果がある事が分かってきました。
患者の血旅をろ過装置に通すと活性穎粒球のほぼ全てを吸着する除去療法で症状がかなり改善されるのです。
2000年4月に厚生労働者で認可され、重症の潰瘍性大腸炎の患者約1000人に行われ70~80%の患者で症状が改善されたのです。
また難病であるクローン病にも活性白血球の異常が発見されているので、この方法が有効ではないかと期待されています。
胃がんや大腸がんなど消化管にできるがんのほとんどは粘膜に発生するので、臓器の内部から観察できる内視鏡が威力を発揮します。
大腸の内祝鏡検査を受けるとき、前日の夕食はいつも通りに食べますが、その後は絶食します。水分は摂ることができます。
検査当日は腸の内容物を空にする為朝に下剤の水溶液を約2リットル飲み、午後から検査が行われます。
お尻に穴の空いた検査用の衣服または紙パンツを着用してベッド上に左側を下にして横臥位になります。
肛門から内視鏡を挿入する時、通常の大腸は空気が無くつぶれた状態なので、内視鏡の先端から空気を送り込み、大腸を膨らませながら先へと進みます。
処置の必要な病変、ポリープやポリープ状のがんが見つかった場合は直ぐに「ポリペクトミー」という方法で切除します。
この方法は内視鏡の先端からループ状のスネアというワイヤーを出して、ポリープの根元にかけて引き絞り、高周波電流を流して焼き切るというものです。
切り取ったものは必ず体外に回収して組織検査を行います。
直腸からS状結腸・下行・横行・上行結腸・盲腸の先端まで大腸すべてをカバーすることができ、その様子は患者さんもモニターで見る事ができます。
検査は30~40分で済みますが、ポリペクトミーをした場合は生活全般に無理をせず、激しい運動は控えます。
がんの場合、内視鏡で切除できるのは、がんの進行が粘膜下層まで達していないもの、大きさは隆起型で2センチ以内、陥凹型で1センチまでとされ、それ以上進行したがんは内視鏡での対象ではありません。