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副腎皮質ホルモンというとステロイド剤、副作用が怖いというイメージがつきまといます。
実際副作用は細心の注意が必要ですが、つまりは医師にとってそれだけ切れ味のいい薬である事は間違いない様です。
では副腎皮質ホルモンとはどういうホルモンか。副腎は左右の腎臓の上にある8~12gの小さな器官です。
内側は毛細血管の多い髄質で、ここからはアドレナリンやノルアドレナリンが分泌され、外側の黄色っぽい部分を皮質と言いここから糖質コルチコイド、鉱質コルチコイド等の副腎皮質ホルモンが分泌されます。
元々髄質と皮質は発生的に別の組織だったのが進化の過程で固まった物です。
もちろん必然性があったからで、髄質でノルアドレナリンからアドレナリンが作られる時、その反応は糖質コルチコイドによって高められます。
また鉱質コルチコイドは腎臓の働きをサポートしています。
さて糖質コルチコイドの働きはアミノ酸から糖を作る糖新生を担っていて、血糖が上がる様に働きます。
更に他のホルモン、例えばグルカゴンや成長ホルモンに作用してそれらの働きを確実にします。
しかし最も重要な働きはなんといっても抗炎症作用と免疫抑制作用です。
この点で劇的な作用を持つために実におびただしい疾患、特に炎症性、免疫疾患に対して多用されるのです。
そして長期のステロイド投与では血糖値が上がり(これは副腎皮質ホルモンの本来の働きでもありますが)、糖尿病とそれに付随する合併症を引き起こす事になります。
また外から副腎皮質ホルモンが常態的に入ると、視床下部や下垂体は体内の副腎皮質ホルモンは充分であるとみなして、副腎皮質ホルモンを分泌させる指令を出さなくなります。
このため副腎皮質はホルモンを作らなくなって萎縮を起こしてしまい、不可逆的に副腎が機能しなくなってしまいます。
こうなるとずっと外から補い続けなければならなくなり、これがステロイドの副作用の怖さなのです。
男性を男らしくしているのは睾丸(精巣)のライディッヒ細胞から分泌されるテストステロンです。
脳の視床下部から性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRHゴナドトロピンリリーシングホルモン)が下垂体前葉に作用して性腺刺激ホルモン(LH)を分泌させ、これがライディッヒ細胞を刺激するのです。
テストステロンは母親の胎内にいる時から働き、第一次性徴を形造るよう促して、生後は思春期が訪れるまではずっと低い値のままですが、10歳を過ぎる頃から分泌が盛んになり18歳頃にピークを迎えます。
第二次性徴で声が太く低く、ひげが生え、筋骨はたくましく、生殖器が大きくなって、子供を大人の身体へと変えるのです。
やがて加齢と共にテストステロン値はゆるやかに減少していき、40歳を過ぎる頃から明らかに低下していきます。
ただ男性には女性の更年期・閉経の様な劇的なホルモンの変化が無い為に、自分が更年期にさしかかっていると気づきにくいのが一般的です。
しかしすべての女性が間違いなく45~55歳の更年期に生殖能力を失うのに、男性には70歳を過ぎてもなお若い頃と同じ位のホルモン値を維持する人もいます。
血中テストステロンはほとんどが性ステロイド結合グロブリンの形で存在していて、標的組織で活性せず、実際に作用するのはフリー(遊離)テストステロンです。
血中絶テストステロン値は60歳頃からゆるやかに減少していきますが、フリーテストステロンは20歳代をピークに年齢と共に減少し、40歳頃から急に減る事が最近知られてきました。
フリーテストステロン値が充分で無いと、過労やストレスから来る精神的な疲労力値接の引き金となって、性欲減退やED(勃起不全)等性機能障害を起こす例がしばしば見られるのです。
のどぼとけの少し下にある甲状腺は、蝶の形をした20gほどの小さな柔らかい器官です。小さいといっても内分泌器官としては最大で、いうまでもなく甲状腺ホルモンを分泌しています。
この甲状腺ホルモンは1.体の成長を調節する 2.熱を産生させて体温を保つ3.心臓を活発に働かせる4.エネルギー代謝をスムーズにする等の働きがあります。
甲状腺疾患の多くが不足による機能低下症一橋本病で、この甲状腺ホルモンが不足するとすれば、上記の様な働きが障害されるのですから、症状も様々に現れます。
下表のような症状を呈するのですが、これらはあまりによく見られる症状なので甲状腺が腫れたりしない限り分かりにくいのです。
つまりこれらの症状を訴える患者さんがあれば、甲状腺機能低下症も可能性として考えるべきだと言えるでしょう。
可能性のある人にはTSH(甲状腺ホルモン放出ホルモン)の測定だけでも勧めた方がいいかもしれません。
アメリカでは血糖、コレステロール、ヘモグロビン、PSA(前立腺がん腫瘍マーカー)と並んでTSHの測定を呼びかけています。
甲状腺の機能が落ちてホルモンの分泌が少なくなると、TSHが沢山出て甲状腺の尻を叩きます。
つまりTSHの値が高いという事は甲状腺がしっかり働いていないという事を意味しているわけです。
橋本病といっても直ぐに医療が必要とは限りませんが、加齢によって状態が悪くなったり、動脈硬化が進行したりするので、経過をみていく事は必要です。
高齢の女性の1割は医療が必要な甲状腺機能低下症といわれています。
甲状腺機能低下症の症状
筋肉痛、関節痛、筋力低下、筋緊張、痙攣、めまい、頭痛、感覚異常、難聴、耳鳴り、嗄声、副鼻腔炎、皮膚乾燥、手根管症候群、徐脈、食欲低下、便秘、月経過多、無月経、貧血
甲状腺機能亢進症は200~300人に1人、甲状腺機能低下症が20人に1人、結節性甲状腺腫も20入に1人という高頻度です。
もちろん全ての人が直ぐ療法をを必要としている分けではありませんが、経過を見る事は必要です。
現に症状が出ている甲状腺機能低下症、バセドウ病、甲状腺がんも女性で70人に1人、男性で100人に1人位は見つかる様です。
亢進症の代表はバセドウ病ですが、動悸、眼球突出、甲状腺の腫れ等が目安になります。
ただ高齢者の場合はこれらのハッキリとした症状が出無い事もあるので 要注意です。
原因不明の体重減少等があったら真っ先にがんを、心配しがちですが、バセドウ病も頭に置いた方が良いでしょう。
手の震えが起こる事もありますが、これも老化による振戦と片づけない事です。
-方、甲状腺機能低下症の場合は様々な症状が自覚されますが、他の疾患と紛らわしいので専門医でないと、医者にも本人にも気づかれ難いというのが現状です。
消化管に関係するホルモンの多くは脳や神経にも存在している事が分かって、それらを脳一腸管ペプチドあるいは脳一消化管ホルモンと呼ぶ様になりました。
その中でも働きがある程度分かってきたものにコレチストキニンというホルモンがあります。
このホルモンは少数のアミノ酸が繋がった構造を持っていて、小腸粘膜から分泌され胆嚢を収縮させたり、膵臓から膵液を分泌させたりする作用があります。
脳の中では食欲の調節に働いていると考えられていましたが、1988年、カナダの生理学者のレ・フェルドの実験で別の作用がある事が分かりました。
このコレチストキニンを被験者の静脈に注射したところ、すぐに「世界が没落する感じ」「不快感や不安感」が数分問起こる事が分かったのです。
翌年、別の研究者の報告では、10人中7人の被験者がパニック発作を起したのです。いずれも数分という限られた時間です。
被験者の感想として「説明のできない恐怖感」「自分の身体を制御できない」等を感じたそうです。
ヒポクラテスの体液論によると胆汁質は短気で怒りやすい、精力的だといわれています。
不安は怒りに転嫁しやすいものです。怒りの表裏として、脳内の不安や恐怖が隠れているといえるかもしれません。
陰陽五行でも肝・胆は怒りですが、脳一腸管ペプチドの存在は先人の直感の鋭さを感じます。
また、コレチストキニンは脳内の重要な神経伝達物質がある部位に見つかっています。
そして痛覚とも密接に関係している延髄の孤束や最後野とも関係していますので、コレチストキニンの脳内分泌が多い人は痛みに対して敏感になりやすいという研究もあります。
いずれにしてもこのコレチストキニンは不安を誘発する物質であり、また胆嚢を収縮させる物質という不思議なホルモンなのです。
主なホルモンは内分泌器官から分泌されますが、その大元締めになっているのが間脳の視床下部です。
ただ視床下部が個別の必要なホルモンを分泌するわけではありません。
視床下部は全身からの情報をにらんでホルモンの分泌を増加させるか抑制するかを決め、下垂体に刺激ホルモンを出すように刺激ホルモン放出ホルモンを出すだけです。
例えば甲状腺ホルモンが足り無いとなれば、視床下部は下垂体に向けて甲状腺刺激ホルモン放出ホルモンを出します。
脳下垂体はそれを受けて甲状腺に向けて甲状腺刺激ホルモンを出して、甲状腺はやっと甲状腺ホルモンを出すというわけです。
視床下部は様々な“刺激ホルモン放出ホルモン”を下垂体に出して、下垂体は各臓器に“刺激ホルモン”や“形成ホルモン”等を出すというわけです。
この調節される物が調節する物に働きかける事をフィードバック調節と言いますが、これには刺激して分泌を促進する正のフィードバックと、分泌を抑制する負のフィードバックがあります。
下垂体が具体的に働きかける内分泌臓器には甲状腺、副甲状腺、心房、副腎、腎臓、すい臓、精巣、卵巣だけでなく、胃や十二指腸等があります。
サリドマイドといえば1950年代に歴史上最大の薬害をもたらした「悪魔の薬」です。
安全な睡眠薬として処方箋も要らずに広く使われ、妊娠中の服用によって胎児の四肢(特に上肢)に奇形を起こし、いわゆるサリドマイド児を5000人以上、日本でも309人の被害者を出しています。
そのサリドマイドが最近になって見直され、「福音の薬」として脚光を浴びています。
最初はイスラエルの医師がハンセン病の難治性の皮膚炎に劇的な効果があると報告したもので、その後全身性エリテマトーデス、ベーチェット病、エイズ等、難治性の粘膜皮膚疾患にも特効薬と言えるほどの有効性が確立されてきたのです。
更にサリドマイドには免疫抑制剤としての効果も発見されました。
体内にはサイトカインの一種であるTNF-αという物質があって、腫瘍組織を壊死させたり、抗細菌、傷の治癒に働きます。
しかし時としてTNF-αが増殖すると自己免疫疾患を起こしたり腫瘍の血管新生作用を引き起こします。
サリドマイドにはこのTNF-α(腫瘍壊死因子)の合成を選択的に抑制する働きがあるというのです。
つまりサリドマイドは免疫抑制作用として自己免疫疾患(関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、乾癬症等)の改善に効果がある事が分かったのです。
免疫抑制の効果ではステロイドより効果があるとの報告もあります。
また血管新生を抑える為腫瘍の血管新生を止めたり、糖尿病性の網膜症や老人性黄斑変性症(いずれも血管新生が異常になる障害)にも有効だといいます。
日本でも既に個人輸入という形で医師の裁激で使用されているようで、日本でもサリドマイドの新しい使い方が検討されています。
妊娠24週未満に胎児が死んだり母体外に出てしまって妊娠が途絶することを流産と言いますが、自然流産が3回以上連続する場合を習慣性流産といいます。
その習慣性流産の原因は胎児では無く母体にある事が多く、検査によって免疫の異常、子宮奇形、子宮頚管無力症、膠原病、ホルモン異常等が分かる事があります。
しかし60%は原因不明といわれています。
母体にとって、赤ちゃんの半分は自分の細胞ですが、残り半分は「異物」である夫の細胞です。
通常、妊娠中は胎児を「異物」として拒絶しないように免疫機能が働きますが、これを生殖免疫といいます。
この免疫バランスが崩れると、母体が胎児を拒絶してしまうのです。
現在考えられている説では夫婦の免疫型HLAの違いが大きいほど流産し難いといわれています。
これは胎児が着床した事がきっかけで母親の体の中に胎児を排除しようとする免疫反応を抑える遮断抗体ができるのです。
異物度が高いほどこの抗体が多くでるのです。HLA型の共通項が多く異物度が少ないほど遮断抗体が少ないので流産するというのです。
療法としては異物度が高める為の免疫療法が行われ、夫の血液中のリンパ球を母体に接種する事で、胎児を排除しようとする免疫反応を抑制するのです。
また最近では自己抗体である抗リン脂質抗体があると流産率が高い事が分かってきました。
細胞や血小板等の膜成分はリン脂質が主成分で、その膜を通して色々な物質が交通するのですが、この抗体が陽性であると、胎盤内の微小血管に血栓が生じて血管が詰まってしまい、胎盤の機能が低下して、流産、子宮内胎児死亡が発生すると考えられています。
従来、流産や死産を繰り返すと精神的な過度のストレスから異物を排除する働きのあるNK細胞が活性化され、免疫異常が起こるともいわれています。
習慣性流産は、多くの場合お母さんが仕事を続けていたからとか、重い物を持ったからといった不節制な生活が原因ではないのです。
西原克成氏は口腔外科の専門医ですが、あまりのユニークさとその壮大なスケールゆえに、アウトサイダー的な位置にいます。
その西原氏が2002年、NHK出版から「内臓が生みだす心」を出版し、この中で、免疫疾患について従来の免疫学には無い、発生学的な視点から次の様な大胆な仮説を提唱しました。
人間の呼吸には口呼吸(腸管呼吸)と細胞呼吸とがあり、この両者の関係の中に免疫疾患の原因があるとしたのです。
著書の臨床報告でも、多くの免疫疾患に対して鼻呼吸、咀嚼訓練と口腔の清浄、横隔膜呼吸(腹式呼吸)と腸管を温める事を勧め、それによってアトピー性皮膚炎や難病の自己免疫疾患等も改善したと報告しています。
西原理論ではあらゆる病気の根源に細胞呼吸の要であるミトコンドリアの代謝の障害があると考え、従来の免疫学では細分化されている免疫疾患も根本のところでは同根であるとしています。
その考えを概略すれば、鼻呼吸では無く口呼吸をすると常在菌の特に好気性菌等が不顕性の感染で身体中に巡ってしまいます。
口腔が不潔であればより不顕性感染が加速します。元々ミトコンドリアは発生学的には身体の細胞に住みついた奸気性の原核生物です。
ですから、ミトコンドリアの酸素を好気性菌によって横取りされてしまうと細胞内のエネルギー代謝がだめになり、細胞は不活性に陥ってしまうというのです。
また、冷たい物の摂取は腸管の細胞の冷えをもたらし、ミトコンドリアが不活性になり腸管免疫に障害が出るとしています。
もちろん、口呼吸や冷え以外にも薬物や汚染物質や食品など他にもミトコンドリアを障害する原因はあると指摘しています。
いずれにしても、ミトコンドリアの呼吸機能が障害される為身体のあらゆる細胞レベルの成長、発生、新陳代謝(リモデリング)が障害され、結果として免疫機構が壊れてしまうというのです。
あまりに大胆な仮説で賛否の分かれるところですが、東洋医学の考えに通じる理論でもあるので紹介しました。
ガンを放って置けば死にますが、ではガンによって何故死ぬのかは本当はよく分かっていません。
ガンが大きくなると体の栄養を独占する様になぅて死ぬという様にも考えられていますが、そう単純でもない様です。
動物実験ですが、Tリンバ球を持たないマウスにヒトの悪性ガンを移植すると、ガンはどんどん大きくなりマウス本体ほどの大きさになってもマウス自体は生きていたというのです。
つまり、ガンその物では生命を落とす事は無いわけで、死なせる原因はガンによって起こる悪液質なのです。
性質の違うガンでも最終的には悪液質の症状(全身の衰弱、るい痩、浮腫、貧血等)をもたらします。
この悪液質の原因はカケクチンと呼ばれていましたが、その本体はTNF-α(腫瘍壊死因子)だったのです。
TNF-αは本来ガンに働いてガンをアポトーシスに導く働きをする物ですが、ガンの進行に伴ってTNF-αが全身に作用し、その為にガンで無い部分の全身にアポトーシスの作用が及んで悪液質の症状をもたらしていると考えられるのです。
TNF-αは脂質、糖、蛋白質の代謝に対して異化作用を進め、また腫瘍の血管の新生も促進します。
上記のマウスにはこのTNF-αが欠けていた為に悪液質になる事なくガンと共存していたのです。
転移とTNF-αのコントロールをすればガンとの共存も可能となる可能性が高くなります。
ちなみにサリドマイドはこのTNF-αを抑える作用でも再評価されてきています。