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病原性大腸菌O -157は食中毒菌の中で感染力が特に強く、菌の数が10~1000個でも発症します。
他の多くの食中毒では100万~10億個を口にしなければ発症しませんが、少量でも発症するのは胃酸に強い抵抗力を備えているからです。
この菌の潜伏期は食べた量にもよりますが、1~10日と長く、下痢、吐き気、嘔吐、腹痛等で一般的な食中毒症状を呈して始まります。
次にベロ毒素を産出する大腸菌を腸管出血性大腸菌といい、これには6種類の大腸菌があります。
その中でもO-157は特に強いベロ毒素を出して蛋白質合成を阻害して細胞を破壊します。
まず大腸の下部腸管の細胞にダメージを与え、水分の吸収ができなくなり、そして、大腸の血管が破壊され出血性の鮮血様の血便となります。
次に腎細胞が破壊され溶血性尿毒症症候群や血栓性血小板減少性紫斑病、更にベロ毒素が脳に達すると痙攣や意識障害等脳症を呈し、死亡する場合もあります。
下痢止め等を服用すると、腸内に病原菌を閉じ込めて異常増殖させてベロ毒素を大量に産生させる為、病気を悪化させる事になります。
また抗生剤投与には効果があるという説と、抗生剤は菌を殺しますが、その結果、菌が菌体内に貯蔵しているベロ毒素を一度に放出するために、病状をかえって悪くするという説があります。
補助的に下痢による脱水を防ぐために輸液を与えることになります。
予防は食中毒における基本を守ることです。O -157は70度で1分加熱すれば死滅するので、しっかり加熱調理して、できるだけ早く食べる事。肉を調理した後のまな板、包丁、ふきんの取り扱いに注意をする事です。
また乳酸菌やビフィズ菌等腸内細菌叢を作る様に心がける事や、最近の研究では緑茶に含まれるカテキンがO-157を殺菌する事が報告されています。
食前、食後には緑茶を飲むと効果がある様です。
下痢といえば食中毒、食中毒は感染症、というイメージがありますが、食中毒と腸管感染症はイコールというわけではありません。
確かに食中毒ではウイルスや細菌などが原因である事が多いのですが、添加物、容器等化学物質が原因の事もあって、感染症とは限りません。
何かを食べた直後、急激、大量に患者が発生する様な場合、最初に感染症として対応される事が多いのですが、まずは毒物等の中毒の可能性が高いものです。
いわゆる腸管感染症の場合、これまで赤痢や腸チフスは伝染病、腸炎ビブリオやサルモネラは食中毒というように伝染病予防法と食品衛生法と別々に扱われていたのですが、感染症新法からは1本化され、感染による食中毒は感染症新法の中では食品由来経口感染症として扱われています。
食品衛生法も改正されて、赤痢やコレラも食品由来で発症すれば食中毒としても扱われます。
さて腸管感染症という面から見れば、毒素型と感染型にわかれ、毒素型では黄色ブドウ球菌やボツリヌス菌等があります。
菌その物の感染というより、菌が作った毒素が口に入る事によって下痢や腹痛等が起こるものです。
ボツリヌス菌の毒素は嚥下障害や呼吸困難等の全身性の重篤な症状を起こします。
-方感染型では大腸菌やサルモネラ、カンピロバクター等が下痢や発熱を起こします。
感染型の中でも感染した後体内で毒素を産生して症状を起こす物に腸炎ビブリオ、下痢原性大腸菌、ウェルシュ菌、セレウス菌等があり、O-157はこの生体内毒素型です。
抗生物質のおかげで感染症は制圧されたかと思われた矢先、1968年のマールブルグ病以来、ラッサ熱やエボラ出血熱を始め、30種類以上もの新興感染症が発生しました。
最初に発生したのがアフリカ大陸等だった事でもわかるように、これらのほとんどが野生動物を宿主とする人獣共通感染症のウイルスによるものでした。
これまで未踏の地だった所まで人間が深く入り込み、また活動範囲も全地球的になった為、眠れる獅子を起こしてしまったというわけです。
しかも、先進国に棲んでいる野生動物も危険なウイルスなどを持っている事が分かってきて、人畜共通感染症は世界的な脅威となってきました。
日本では多くの野生動物がペットや実験用として輸入されていますが、1999年の感染症新法施行でサルのエボラ出血熟とマールブルグ病が検疫対象に、また狂犬病法の改正でネコ、キツネ、アライグマ、スカンク等が検疫対象になりました。
しかし実際はおびただしい種類と数の野生動物が輸入されており、それらはまったく野放しで、新しい感染症だけで無く狂犬病等、いつ発生してもおかしくないというのが今の日本の状態です。
本来、野生動物は飼わない、触れ無いという事が無用な危険を避ける事になります。
更にこれからは動物バイオテクノロジーの発達で、動物を利用して医薬品を作る事も多くなるとみられ、新たな人畜共通感染症の発生の可能性は少なくありません。
身体がもつ感染に対する抵抗性は特異的感染抵抗性と非特異的感染抵抗性に分けられています。
特異的感染抵抗性とは「免疫」の事で、「自己と非自己を識別し、非自己を排除する反応」と定義されているシステムです。
要するに外から入ってきた特定の細菌やウイルスを敵として認識して攻撃します。
このシステムには体液性免疫系と細胞性免疫系があり、お互いに補い、助け合って感染防御や生体の恒常性維持の為に働いています。
もう1つが非特異的感染抵抗性というものです。
これは外部から侵入しようとした病原体をどれでも機械的に阻止する機構をさします。
例えば、波膚の扁平上皮細胞の外側には粘液腺や汗腺、皮脂腺などを分泌する粘膜層があります。
侵入しようとする病原体は粘液中のリゾチームという酵素や皮脂腺からの抗菌力のある不飽和脂肪酸によって阻止されます。
その他の分泌液では唾液、涙液、鼻水、胃酸、胆汁酸も抗菌の働きをします。
また、気管上皮細胞の繊毛運動、消化管の蠕動運動、排尿運動等も病原体の標的細胞への定着を抑制する為に物理的に働きます。
更に、細菌やウイルスが深く侵入して血液やリンパ液に乗ったとしても、血液中には殺菌活性のあるラクトフェリンやトランスフェリン等の蛋白質が待ち受けています。
血液中やリンパ液中には、好中球や単球、マクロファージ等の食細胞が常時パトロールして病原体を攻撃しているのです。
また、身体の直接的な防衛機構では無いのですが、皮膚の黄色ブドウ球菌や腸内正常細菌叢や腕のデーデルライン棹菌等の常在菌は他の病原菌の侵入を防いでくれています。
HIV(ヒト免疫不全ウイルス)は細胞性免疫のいわば司令塔であるCD4陽性Tリンパ球細胞に感染して、次第にその細胞を破壊していき、免疫機能障害を引き起こす様になります。
その為に次第に免疫不全状態が悪化して行き様々な日和見感染が起こり、重篤な症状が出てきますが、その状態をエイズと呼んでいます。ですからエイズとはHIV感染症の最も進行した状態だけを言います。
日本では一時ほど騒がれていませんが、アフリカや東南アジア等世界的にみるとやはり最悪の感染症といえます。
現在では方法がかなり確立してきています。初期感染、無症状期、エイズ関連症候群、エイズ期の4期に区分されて、区分に沿った医療が行われています。
なにより初期が大切なのですが、初期感染の時は一時風邪様症状がみられますが、自然治癒してしまいますし、数年から10年間は無症状期に移行していきます。ですから、よほど悪くなるまで気が付かない事が多いわけです。
本人が感染に気づいていないので当然二次感染を引き起こしてしまいます。
無症状の時期でもリンバ節ではウイルスが盛んな増殖とリンパ組織の破壊がじわじわ進行していることが明らかになっています。
ですから、HIV陽性であれば、その時期に積極的な通院を開始をしなければなりません。
ウイルスの動態も解明され強力な抗ウイルス剤を投与する事で感染症の進行を阻止することが出来て、免疫状態の改善も可能になってきています。
近頃あまり騒がれてはいませんが、大変危ない性感染症である事は間違いありません。
現在まで肝炎を起こすウイルスはAからGまで7種類見つかっています。その中でも肝臓がんや肝硬変になりやすいのがBとC型肝炎ウイルスです。
以前からA型は経口感染、B型は性感染症として知られていましたが、C型は1989年にC型肝炎ウイルス(HCV)抗体測定試薬の開発から始まった、HCV感染者の実態調査で明らかになったウイルスです。
とくに中高年の感染率が高く、近年は肝臓と胆管のがんの死亡数が年々増加してきています。
このHCVは性感染症でもありますが、医原病といってもよく1960年代まで行われていた予防接種の注射針の使い回し、1989年以前に行われた輸血や血液製剤等による感染が明らかになっています。
このC型肝炎は一過性感染に終わる場合もありますが、急性肝炎を起した場合、50~80%は持続感染(慢性肝炎)に移行します。
また、C型慢性肝炎は感染してから10~15年はトランスアミナーゼ(GOT、GPT)は正常域ですが、その間も肝臓の線維化は進行しています。
その後肝機能の検査数値は異常を示す様になり、20~30年で肝硬変に移行し、肝臓がんの発症も増加していきます。
中高年者で若い頃に数ケ月の間しつこい風邪様症状、食欲不振、悪心、嘔吐が続いた経験を持つ人はC型肝炎が疑われますので検査をお勤めします。
どの型の肝炎でも慢性肝炎はトランスアミナーゼの数値が大きな変動を繰り返しながら、次第に肝硬変に移行していきます。
ただ、途中で進行が止まり鎮静化する事もありますが、それから肝臓がんに移行する事もありますので経過観察が必要である事は変わりません。
療法としてはとしてはインターフェロンや抗ウイルス剤のリバビリンなどでかなり改善するようになりました。
C型肝炎対策の一環として、インターフェロンの助成がありますので多くの方が治癒しています。
助成がいつまで継続するかは分かりませんので受診開始をお勤めします。
地球温暖化が進めば温帯地域でも熱帯、亜熱帯性の感染症が増加すると予測されていますが、その増加の要因として蚊の北上があります。
最近ではニューョークで鳥に寄生している西ナイルウイルスが蚊の媒介によって人に感染、発症し、死亡者が出ましたが、これにも温暖化が影響していると報告されています。
蚊が媒介する感染症にはマラリア、デング熱、黄熟、日本脳炎、フィラリア等があります。
その中でもマラリアが世界の最大の感染症で、人類の約半数はマラリアの汚染地帯に住み、毎年の感染者8億人、患者は約3億人、死亡者約200万人を出しています。
マラリアはマラリア原虫で発症し、ハマダラカ属の蚊によって媒介され、刺された時に感染します。マラリア原虫は15℃以下になると生活ができなくなります。
また、媒介するハマダラカの活動限界は10℃で、最も活発に動くのが25℃前後で、40℃になると蚊も原虫も活動できません。
WHOによると温暖化で気温が3~5℃上昇すると、流行の危険地域は2割拡大し患者は年間5~8千万人増加すると予測しています。
2050年には西日本地域や東京等の都市も平均気温が上がり、危険地域に入ると予測されています。
マラリアは蚊の中にあるスポロソイド(オーシストという原虫の卵の中にある胞子)が人体に侵入すると、肝臓に入り1~2週間潜伏して増殖後、赤血球に侵入し破壊し、再び新たな赤血球への侵入、これを繰り返し原虫が増加し、その時に発熱するのです。
一定量以上の赤血球が破壊されると黄疸を伴う貧血、破壊された赤血球の破片の増加によって肝腫、脾腫になります。
とくにマラリアの中でも熱帯熱マラリアは症状が急激に重症化し、発病後5日以内に受診しないで放置すると脳を含めた全身機能不全を起こし死亡します。
マラリアの薬、予防薬としてクロロキン等もありましたが、最近は薬剤抵抗性を獲得したマラリア原虫が出現してきています。
温暖化がどの様な感染症を引き起こすのか、今後は厳重な監視が必要になってきました。
輸入感染症とは海外旅行者や、輸入食品等によって外国から入ってきた感染症を指します。
最近ではそれに加えて赤痢や腸チフス等、途上国等から再上陸する感染症、更に外国で罹患したSTD(性感染症)等も含める様になりました。
先進国では衛生状態の悪さによる感染症は激減していますが、世界では現在でも毎年2000万人が感染症で亡くなっています。
その内呼吸器感染症は400万人、消化器感染症300万人、マラリアも200万人にも上り、多くは発展途上国の人々です。
一方、日本からの海外渡航者は年間1700万人、外国からの入国者も年間300万人と、地球上のあらゆる場所から人々が行き交い、そのスピードも益々早くなっていて、それは感染症も猛スピードで伝播される事を意味します。
中でも途上国での経口感染は、安全な食べ物や水に慣れた日本人にとって極めて多い感染症です。
A型肝炎、E型肝炎、ロタウイルス、コレラ、赤痢、腸チフス、パラチフス等がよく知られています。
海外旅行では生水、生肉・魚、生野菜は危険です。また蚊等の昆虫からはマラリアを始め、デング熟、黄熟、フィラリア症等沢山の発熱性疾患が感染します。
また日本では随分発症が無いので油断しがちなのが狂犬病で、狂犬病が発生していない国の方が極わずかです。
キツネやアライグマ、スカンク、コウモリ等が持っていて、噛まれたりして発症すれば100%死に至ります。
むやみに野生動物に近づかない事です。また川遊び等では住血吸虫に感染する事も。
海外旅行をする時は、旅行先の情報をしっかりと把握して重々油断しない事です。
インフルエンザは毎年、程度の差はありますが12月から3月にかけて必ず流行します。
医療機関で診察を受ける人が毎年数十万人はいます。その中で症状が重く入院する人も1万人前後になります。
ですから、症状の軽い人まで含めると数百万人が毎年発症している最も発症率の高い病気だといえます。
通常のウイルスだとー度発症すると身体に免疫抗体を持ちますから、二度はかかりません。
しかし、インフルエンザウイルスは表面の抗原の鍵穴を頻繁に変える能力がある為に、免疫が効かなくなり数年で再度感染してしまうのです。
もう1つの特徴として、流行規模の大きさが挙げられます。この大流行の原因は、意外にもインフルエンザウイルスその物は病原性があまり強くない事があげられます。
実はウイルスに感染しても半数の人は不顕性感染で、気付かずにウイルスを撒き散らしてしまうのです。
ところが、インフルエンザは発症すると数日間は高熱が続き、免疫力を著しく低下させる為に、抵抗力が弱いと肺炎を発症させる事になるのです。
特に高齢者にとっては非常に危険で、老人病院や老人施設等で集団感染で死亡者が出るのもインフルエンザウイルスの感染力の強さと病原性の低さが原因なのです。
ですから、元々免疫力が低い高齢者や乳幼児にとって、インフルエンザは大敵なのです。
インフルエンザの予防接種は高齢者にこそ必要なものでインフルエンザの死亡者の90%は65歳以上の高齢者です。
現在ワクチン接種の激減のためにワクチンの生産量も30分の1に落ちています。
もし、死亡率の高い新型のウイルスが現れても生産設備がない為に、日本は無防備な状況に陥っていると警告している研究者もいます。
一部にワクチンに効果はないという意見や副作用を心配する声もありますが、感染防御効果と病状を軽くする効果がある事は確かな様です。
また、バーキンソンの薬のアマンタジンがインフルエンザに効果があり話題になりました。
ノイラミニダーゼ阻害薬などの副作用の少ないタミフル等は有効です。
コンプロマイズド・ホストとは、本来ならばそうそう発症しないような感染症に、容易に感染しやすい人(=宿主)の事を指します。
感染症の発症は病原体と宿主との関係によって決まりますから、例え病原体にさらされても、全ての人が発症するとは限りません。
いわゆる免疫力に左右されるのです。ところが今の日本人は長寿になりましたが、コンプロマイズド・ホストは増え続けています。
老人は老化による免疫力の低下、乳幼児は免疫が未完成という事で病気にかかりやすいのですが、現代の日本ではその他にも様々なコンプロマイズド・ホストが生まれる条件力哺えています。
高齢である事に加えて、多くの人が持病を抱えていますが、なかでも悪性腫瘍、糖尿病、肝炎、HIV、免疫疾患等を持つ人が増えている事は感染症に弱い人が増加している事を意味します。
臓器移植を受けた場合もコンプロマイズド・ホストといえます。
また、本来の意味から外れますが、日本の社会自体がコンプロマイズド・ホスト化しているといえるかもしれません。
抗菌グッズの氾濫や過剰な清潔志向でかえって免疫が成立しなくなっている事が指摘されています。
東南アジアの旅行者でも日本人だけがコレラになったという話はその一例でしょう。また抗生物質や抗菌剤の多様で、強力な耐性菌を増やしていることも、相対的に感染によるダメージを大きくしている事になります。