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うつ病の人や強いストレスに長く晒された人の脳をMRIでみると記憶の入り口である海馬が萎縮している事が分かっています。
そこでその人達の血中、尿中および脳脊髄液中を調べるとコルチゾールの濃度の上昇が見られました。セリエのストレス学説で明らかな様に、ストレスに出会うと下垂体から副腎刺激ホルモンが出て副腎皮質ホルモンであるコルチゾールが分秘されます。
このホルモンはストレスに対する抵抗性を増す様に代謝過程に影響したり、強力な免疫抑制として働きます。
つまり損傷組織への過剰反応を防ぐ為に抗炎症として働いて身体を守るのですが、そのコルチゾールが血中に多く分泌されれば視床下部の受容体と結合してフィードバックが働いてその分泌は抑制されます。
脳内にはコルチゾールの受容体が多くある事が分かっていますが、海馬には特に高濃度に分布しています。
その受容体にコルチゾールが結合すると視床下部のフィードバックが機能し無くなり、コルチゾールが過剰分泌される事も分かっています。
神経細胞はこのストレスホルモンによって形が変わったり死んだりします。つまり強いストレスが長く続くと海馬の神経細胞が死滅し萎縮するのです。
また、炎症疾患が長期化すると抗炎症作用のあるコルチゾールの制御異常が起きる事がうつ病と関連していると考えられています。
慢性関節リウマチ患者は殆んどがうつ病と診断されるという報告があります。
コルチゾールの過剰分泌が脳細胞に影響してボケやアルツハイマー病の原因ではないかと見られています。
脳も使わなければ衰えます。
脳を使うといえば深く考えたり本を読んだりする事をイメージしがちですが、脳を最も働かせるには体を動かす事が一番です。
筋肉は脳の指令によって動きますから、指令する分、脳を使うのだと理解されがちです。
確かに、からだの動きを目的に合わせて微妙に調節する為には、大脳運動野や感覚器から中脳や小脳等にも信号が送られ、脳は広い部分を使う事になります。
しかし、筋肉は単に脳からの指令で動くだけで無く、感覚器として脳を刺激しています。
そもそも筋肉の筋紡錐と腱紡錐は筋肉の長さや張力を感じる器官で、筋線維の状態や乳酸等の代謝や炎症などの免疫反応で生じた物質を感知する事ができ、その刺激は脳に送られています。
しかしそれだけで無く、筋肉の動きその物が脳に働きかけていると言う事が分かって来たのです。
ラットの実験では、運動をさせると運動野が活性化するだけで無く、視床下部の神経細胞も活性化されたといいます。
視床下部は脳下垂体を刺激して成長ホルモンを始め、様々なホルモンを分泌させます。
成長ホルモンは特に老化とも大きな関係があり、加齢による体脂肪の蓄積や脳の老化もこのホルモンの分泌が減る為だと考えられています。
成長ホルモンは痴呆の防止や改善、若返りのホルモンとして脚光を浴びています。運動はこの成長ホルモンの分泌を盛んにしてくれるのです。
筋肉を動かす事で脳に刺激を与えようとするには大きな筋肉を動かす事が効率が良く、その意味でも下肢の筋肉を大きく動かすウォーキングは脳の老化防止の為にもピッタリというわけです。
小脳は身体の筋肉運動や姿勢の制御にとても重要で、平衡感覚や全身の骨格筋や関節等の情報が入ってきます。
生物の中でも、動きの鈍いカエルやイモリ等の両生類は小脳の発達が貧弱ですが、鳥類や哺乳類では小脳がよく発達しています。
系統発生的に最も古い部分を片葉・小節(原小脳)といって姿勢制御の為の平衡感覚に関係し、次に古い前葉(古小脳)は、脊髄や脳神経からの筋肉や関節の情報を受け取っては筋緊張の度合いを調節しています。
新しい後葉(新小脳)は、大脳皮質が行おうとする手や指先の精巧な運動の調整や技能的な熟練に関係しています。
小脳で最も大切な機能は、運動の「比較測定装置」の働きで、これは大脳皮質の運動野から指令が出て随意運動を起こそうという時、その情報が同時に小脳皮質にも伝えられます。
運動開始で筋肉や関節が動くと、それらに分布する受容器からの感覚情報がリアルタイムに小脳にインプットされてきます。
その結果、小脳は運動野のプログラムと実際の運動とを比較して、もし一致していなければ脊髄の運動神経細胞に信号を送ってそのずれを矯正し、同時に運動野にも次の運動の為にデータをフィードバックするのです。
この比較測定装置の分かりやすい働きとしては、普通目を閉じていても鼻の頭を指先でさわれるのに、小脳が障害されると上手く触れ無くなる事等があります。
小脳皮質にあるプルキンエ細胞は特にアルコールに弱く、酔っ払た人の行動を見れば、この装置の機能障害がよく理解できます。
また、小脳は被殻と共に運動技能の習得に深く関係していて、ピアノや自転車や水泳等、一旦身体が覚えれば一生忘れ無いというのは、小脳に記憶されるからなのです。
脳の中で記憶と深く関与している部位は海馬、側頭葉、被殻、扁桃体、尾状核等です。
記憶といっても“東京は関東地方にある”と言う様な知識としての記憶から、五感や感情を伴う個人的な記憶まで様々です。
当然、記憶の内容によって記憶の保管場所も変わります。
記憶の中心の海馬は側頭葉の皮質の下にある器官で、大脳の新皮質のほぼ全てのエリアと結ばれていて新しい情報がそこを中継して行き来しています。
この海馬が損傷を受けると、新しい事は全く記憶できなくなりますし、それまでの記憶も影響を受けます。
また、海馬は空間記憶を保存しており、地図等を思い描く事ができます。
側頭葉の新皮質には強く印象が残って何度でも思い出すと言う様な長期記憶が納められています。
この長期記憶は海馬から側頭葉の皮質の色々な場所に記号化されて送られているのです。
前頭葉は記憶の想起を促しますが、皮質に点在している記憶が、その想起によって集まり、より全体的なイメージとして脳裏に浮かぶのです。
また皮質では“ビールは苦い。苦いのはホップがあるから。ホップは植物の実である”と言う様な場合、“ホップ”は意味記憶として保管されています。
ホップはそのまま独立して知識として残っていきます。
被殻は小脳と共に、ゴルフの仕方や自転車の乗り方といった手順記憶が保存される場所です。
また、扁桃体では恐怖やフラッシュバックなど情動的なショックを受けた記憶が保存されています。
尾状核ではいわゆる本能の記憶が保管されているといわれています。
脳は神経細胞とその間を埋めるグリア細胞でできていて、その中をみっしりと毛細血管が走っています。
グリアとは膠(にかわ)の意味で、これまでグリア細胞は神経細胞の間を埋める充填材、せいぜい神経に栄養を与えていると言う位にしか考えられていませんでした。
ところがこのグリア細胞にも神経細胞に、ある神経伝達物質の受容体がある事が分かり、その働きもこれまで考えられていたよりも複雑で重要だという事が分かってきたのです。
神経細胞もグリア細胞も発生の時には神経幹細胞から分かれますが、グリア細胞の数は神経細胞の10倍にもなります。
そのグリア細胞は神経細胞に栄養を与えるだけで無く、成長因子を出して、神経から伸びるシナプスを誘導する働きをしたり、神経細胞がダメージを受けた時に修復する働きがある事も確認されています。
つまり神経細胞とグリア細胞は相互に作用を与え、与えられという関係にあるらしいのです。
また脳の中の毛細血管は他の体の血管と違って物質の透過が厳密に管理されてる血液脳関門システムを持っていて、それは毛細血管の内皮細胞によります。
その内皮細胞の外側にグリア細胞が伸びていて、血液脳関門システムにグリア細胞が何らかの働きをしているのではないかと考えられているのです。
また虚血状態等のように脳にストレスがかかるとグリア細胞はストレス蛋白を作り、更に神経細胞を維持する様な活性因子を作る事がネズミの実験でも確認されています。
この様な働きがもっと詳しく分かれば、痴呆の改善も一段と進む事でしょう。
神経細胞の数は生まれた後は増え無いというのが定説でした。
しかし嬉しい事に成人してからも増えているらしい、という事が分かって来ています。
それは成人の脳にも神経幹細胞があり、新しい神経細胞ができているという発見によるものです。
幹細胞というのは、“自己を複製できて、他の細胞に分化することができる”細胞です。
神経幹細胞は分裂して前駆細胞となり、それが神経細胞やダリア細胞(アストロサイト、オリゴデンドロサイト等)に分化します。
この分化前の神経幹細胞は脳の色々な部位にあり、特に海馬では成人してもずっと神経細胞が作られている様です。
この神経細胞の新生は色んな影響を受けますが、ラットの実験によれば電気等の物理刺激によって新生率が上がります。
また外からの刺激だけで無く、環境による生理的な影響にも左右されます。
例えば単純な環境(普通のケージ)のラットに比べて、豊かな環境(広くて遊び道具等がある)のラットでは新生する神経細胞の数が多かったというのです。
また心理的ストレスに晒されると1時間で新生率が低下し、ストレスホルモンである副腎皮質ホルモンを投与した場合も新生率が下がる事から、ストレスは脳の再生にとって大変な悪影響を与えているという事が言えるのです。
年を取るとステロイドホルモン濃度が上がる上に血液脳関門での物質の選択も弱るので、ストレスの影響はより強く受ける事が考えられます。
老化による記憶の低下は海馬の神経細胞の新生が少なくなった事によるのかもしれません。
施術者から患者にうつさない、または患者が持ち込む病原体を他の患者にうつさないというのは常識ですが、対策には意外と抜け落ちている点がある様です。
鍼による感染の可能性がある鍼灸師は、自身の身を守る為にもB型・C型肝炎の感染の有無について鍼灸師自身の定期的なチェックを行う等、常に心がけるべきです。
万が一感染があっても早期施術すれば慢性化を防げます。
鍼灸院などの日常の感染防止対策として、患者が病院と鍼灸院を往復する様な抵抗力の低下した人や高齢者が多い事からも、院内の衛生環境の維持のため消毒・滅菌は不可欠です。
鍼灸室はディスポーザブルのシーツや枕カバー等を利用していても、見落としがちなのは待合室です。
患者がよく触れる受付のカウンターや長椅子やトイレ等は患者の手による汚染度が高いとされています。
また靴を脱いでスリッパに履き替える所では、スリッパの足の接触面が汚染されるので、消毒剤とエタノール配合のスプレーを噴霧後、直射日光下で乾燥させるといった注意が必要です。
また往診をしている施術者が注意しなければならないのが、ヒゼンダニによる疥癬です。
このダニは指の間や手関節、手掌や外陰部の角質にトンネルを掘って進み、産卵する為に非常に痒く、また改善も困難です。
免疫抑制剤を使う患者や老人に重症感染がみられ、これをノルウェー疥癬と呼んでいて感染力が非常に強いので要注意です。
施術者は特に入念な手指消毒は欠かせませんが、洗面器に消毒液を入れておいて何度も使用する、
備え付けタオルを何度も使うというのは交差汚染に繋がるので行うべきではありません。
手指は抗菌剤を含む石鹸や消毒剤を使用して、直ぐ流水でよくすすぎ、使い捨てペーパータオルを利用するといいでしょう。
日本人の3大死因はがん・心疾患・脳血管疾患ですが、最終的に肺炎特にカビによる真菌性肺炎で亡くなるケースが少なくありません。
カビの胞子は細菌と共に空気中を常に無数に飛んでいて、呼吸時に吸い込んでいますが、健康で免疫系が正常であれば何も問題はありません。
気管の粘膜にある繊毛が働いてカビの胞子を排出し、肺胞にまで入り込んでもマクロファージが処理します。
しかしがんや白血病など重い病気で体力が落ち込んでしまうと免疫力も低下し、侵入したカビを排除できなくなってしまいます。
臓器移植で免疫抑制剤を投与されている人も同様で、一旦侵入したカビは発育が非常に早く、あっという間に肺全体に広がって、短期間に亡くなる事が多いのです。現在の医療現場で最も問題になっているカビの病気は、アスペルギルス症とカンジダ症です。
アスペルギルス症は診断が難しく、薬も効きにくく、また肺や角膜や脳など身体中のあらゆる臓器に生えてしまうやっかいな病気です。
またあらゆる人に一番身近なカビといえば、人の身体の中に棲みついている、カンジダ・アルビカンスです。7万種あるといわれるカビの中でも、このカビだけが人の口腔内や大腸等の消化管に常在する事ができるのです。
カンジダ・アルビカンスは普段はいたって大人しく、病気を起こす事は無いのですが、抗がん剤等で腸粘膜が大きく傷付くと、組織内に侵入して全身に広がってしまいます。
ところで30~40年前の日本ではカビの病気といえば水虫等の皮膚病が中心でした。
医療の進歩により、抗生物質や抗がん剤・免疫抑制剤・ステロイド剤等の開発で、腸管の菌叢が破壊されたり、免疫力が低下した人に重篤なカビの病気が増えたのは皮肉な事です。
毎年冬場が近づくと、新型インフルエンザの出現が恐れられています。
いま新型インフルエンザが発生すれば、日本だけでも死者が数十万人も出ると予測されています。
日本では1997年に対策検討委員会ができて、危機管理対策が始まりました。
1999年1月~2月にかけて、三重県多度町の精神病院で入院患者19人がインフルエンザの集団感染で亡くなりました。
保健所で詳しく調べたところ、患者の多くがインフルエンザの感染と共に、抗生物質の効かないMRSA(メチシリン耐性プドウ球菌)に同時に感染していて、MRSAの出す毒素でショック死する「毒素性ショック症候群(T S S : Toxic ShockSyndrome)」で亡くなった可能性が高いと分かりました。
それまで日本ではインフルエンザの集団感染でTSSによる複数の死者が報告された事はなかったのです。
TSSは、手術後の傷に感染したMRSA等の細菌から出た毒素が全身をかけ巡り、ショックを起こす症候群の事です。
「人喰いバクテリア(マンイーター)」と呼ばれる劇症型のA群溶血性連鎖球菌も、インフルエンザウイルスと同時に感染すると致死率が急上昇する事が、大阪大歯学部の川端教授らのマウス実験で確かめられました。
A群溶連菌、インフルエンザウイルスの単独感染では、致死率は共に10%以下なのに、インフルエンザ感染の後にA群溶連菌に感染させると90%以上が数日で死んだのです。
A群溶連菌は多くの人の咽頭部に常在しており、MRSAも今や保菌者は普通の人にもかなりの割合で見られ、これらを撲滅するのは困難なので、対策に苦慮しているのが現状です。
2015年11月7日宮崎県日向市の温泉施設で発生したレジオネラ症の集団感染は7人の死者を含む約300人に達しました。
風呂の湯を循環させる配管のろ過器等でレジオネラ菌が増殖したのが原因でした。レジオネラ症といえば、24時間風呂の循環装置で問題になりましたが、その原因であるレジオネラ菌はアメーバ等の原虫に寄生して土壌や河川、湖沼等自然界に広く生息し増殖します。
酸や熱に強く、50度のお湯の中でも死滅しません。
レジオネラ菌は生活菌で、普通の銭湯や温泉には必ずいるのですが、それがよどんだ水の中で爆発的に増殖し、加湿器、給湯設備、循環式の浴槽やジャグジー、打たせ湯、人工の滝や噴水等の水煙を吸い込んで肺に感染するのです。
温泉施設では循環型や溜めたお湯を使う施設が多いので、浴場の換え水や清掃、残留塩素濃度等衛生管理が悪いとレジオネラ菌が繁殖しやすく感染の恐れがあります。
厚生労働省は宮崎県の感染をきっかけに、全国の保健所に大型浴場の検査をする様に通知しました。
レジオネラ菌による症状は、レジオネラ肺炎とポンティアック熱の2種があり、ポンティアック熱はインフルエンザの様な症状で治ります。
レジオネラ肺炎は劇症と言われるほど悪化が早く、死亡率も高く、保健所に届出義務がある病気ですが、人から人へは感染しません。
感染しても、体の抵抗力が強かったり、菌数が少なく、菌が弱っていれば、発熱や筋肉痛、けん怠感を感じる程度で約1週間位で自然に治る軽症の場合もあります。
しかし、幼児や老人、糖尿病患者等体力、免疫力が落ちている人に感染すると注意が必要で、悪寒や高熱、激しい咳込みや胸に痛みを感じます。
レジオネラ菌の感染であればマクロライド系、テトラサイクリン系の抗生剤を服用すれば、完治しますが、この菌の検出に2週間かかるので、症状から想定して受診する事が大切になります。
初期受診を間違えると約1週間で死亡する事もあります。