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疲れに襲われ、日常生活も営めないという様な「慢性疲労症候群」の患者は、日本では0.3%位と見られています。
そこまでひどくなくても実際に慢性の疲労感で苦しんでいる人は多く、3人に1人は半年以上続く慢性的な疲労を感じているといいます。
そこで慢性疲労症候群が引き金となり、“疲労”の研究が進むに連れて様々な事が明らかになってきました。
慢性的な疲労の原因としては慢性的なストレスと慢性的な感染が考えられます。
慢性的にストレスが続くとナチュラルキラー細胞の活性が低下して感染症にかかりやすくなったり潜伏ウイルス等が再活性します。
すると免疫抑制のサイトカインが放出されて、内分泌を狂わされます。
その為幸福感や、やる気にかかわるDHEA-Sという神経ホルモンが異常に低下し、更にこれが脳の中での神経伝達物質の合成を阻害して強い疲労感となって行くのです。
検査しても特別な原因が見られない疲労感を訴える患者さんは、単なる気のせいでは無く、こうした体内での流れができていると考えられます。
時として慢性疲労症候群にうつの薬が効くのも神経伝達物質に上手く働きかける事があるからなのです。
この一連の悪循環を作るのはストレスだけで無く、サイトカインの放出を高める様々なウイルス、細菌、それも以前感染して潜んでいる病原によっても引き起こされます。
特にインフルエンザウイルス、サイトメガロウイルス、ボルナ病ウイルス(馬の脳炎を起こすウイルス)、ヒトヘルペスウイルス、クラミジア、マイコプラズマ等様々なウイルスや細菌が影響していると見られています。
改善に効果が期待される事は何でもやってみる様ですが、ビタミンCの大量投与(4g/1日)や漢方薬の補中益気湯や十全大補湯等に効果があるといいます。
1987年に免疫学の抗体遺伝子でノーベル医学生理学賞を受賞した利根川進氏はMIT大学で痛みについてグループ研究を続けています。
その中で、外傷等で神経の障害によって引き起こされる慢性の痛みが起こる機序に重要な役割をしている物質を特定しました。
これは脊髄の中の細胞内伝達系のPKCγ(プロテイン・キナーゼ・ガンマ)という物質です。
痛みを伝える神経が障害されると、触覚を伝える神経が新しい枝を伸ばし痛みの神経に接触して痛みを伝える神経回路ヘバイパスが形成されます。
ですから軽く触られたり、触れられたりする非常に弱い信号を脊髄の中の痛みの神経に伝えるのです。
そこでPKCγがその信号を増幅させ大脳皮質に送る為に、強い痛みを感じるのです。
ですから、利根川らのグループの実験で遺伝子操作してこの物質を欠損させたマウスは神経を損傷しても神経障害性の疼痛は起ら無かったと報告しています。
この様な脊髄の中で痛みの信号を増幅させる物質は他にも見つかっています。
よく知られた代表的なものにP物質(サプスタンスP〉や神経の興奮を伝える興奮性アミノ酸(EAA)などがあります。
特にひどい外傷や手術の跡等に、激しい痛みの聘激が脊髄に伝えられ続けると、触角を伝える細胞にP物質を作る遺伝子が誘導されてしまいます。
この状態が形成されると、傷口が治った後でもそこを触っただけでも痛みや痺れが起こります。
この様な状態を特に「アフロディニア」(異痛症)と呼んでいます。
いずれにしても、慢性的な痛みが起こるのは末梢から中枢までの神経回路の中で複雑なプロセスが生じて起こっているのです。
身体に与えられた情報は感覚器を通り、最終的には中枢神経によって意識されます。しかし、感覚の中で身体の内に起こっている現象を唯一察知出来るのが内臓感覚です。
この内臓の入り口と出口に有るのが味覚と尿意や便意で、これらの感覚は鮮明に意識出来ますが、内臓の中で起こっている不快さはかなり曖昧になってしまいます。
形態解剖学の三木成夫先生は「内臓の感覚は脳と連繋は一般にぼやけ、従って、そこに起こる全ての出来事は肉体の奥底に蟲く無明の情感として、ただそこはかと無く意識の表に姿を現わすに留まる。
内臓の不快が思考の不快に化けるゆえんは、ここに有るのではなかろうか」と述べています。三木先生は内臓感覚を鍛える事が豊かな情感や思考を生み、生命の営みを察知出来る重要な感覚であると力説しました。
その為に口腔感覚の練磨を提唱しました。つまりまだ原初的な生命の尻尾を持った乳児の時期に「舐め回し」や「母乳の吸引」をする事で内臓感覚は豊かになると言っています。
やたら清潔になり過ぎて舐め回しという行為を子供から奪う事は、腸管リンパ系を無し崩しに骨抜きにする事であり、恐ろしい去勢の行為と知らねばならないとまで断じています。
古来より東洋医学では内臓とあらゆる感覚が結ばれているとされてきました。現在の針灸の経絡理論も五行説も体表から内臓のバランスを整えると言う考え方に立脚しています。
人間は普段の生活の申で無意識の内に内臓感覚の実感をより深く認識しているのです。
聴力は高齢者の日常生活動作(ADL)に深く関連する老化の指標ですが、実際に老化と共にどの様に変化し、どの様な因子の影響を受け易いのかはよく分かっていませんでした。
愛知県の国立長寿医療研究センターが6万6千人の人間ドック受診者を対象に、8年間に渡る追跡調査を行った結果、20代では変化が無いのに30代になると男女共に年齢に比例して聴力が低下するのが認められました。
男女差が出たのは4000ヘルツの高音レベルで、男性は60歳で聴力損失が30デシベルという軽度難聴(両耳を指で塞いだ位)に達し、70~80歳で50デシベルの高度難聴(ほとんど聞こえ無い)に達しました。
しかし女性は70~80歳でも高音域の聴力が余り落ちず、軽度難聴に留まりました。
加齢に加えて聴力に影響を与える危険因子を見つける為、血圧や肥満度、喫煙や飲酒の習慣、赤血球数等との関係についても調べた結果、特に女性で喫煙と聴力低下の関係が著しい事が明らかになりました。
平均して40歳代で毎日20本以上吸う人は、吸わない人に比べて約6年聴力の老化が進んでいると言います。
喫煙男性にも女性程では無いが聴力低下が見られ、また喫煙者と同居している非喫煙者も難聴になり易い事も分かったのです。
他には肥満やコレステロール等生活習慣病となる因子の悪化も聴力低下に関係していました。喫煙が最も聴力に影響を与えるのは、聴覚器官への血行が妨げられるのが原因だろうと考えられています。
嗅覚は進化の面から見ると五感の中でも古い感覚です。発生の過程でも早い時期に作られ、妊娠5ヶ月頃になると匂いを感じる事が出来る様になります。
羊水の匂いが原始的な匂いの記憶になって母親への愛着など、その後の発達に役割を果たす事になるのです。子供の頃は匂いに対する好みは狭いのですが、性ホルモンが活発になる思春期になると匂いの好みが大きくに変化します。
それまで好きだったストロベリー等の匂いは好まれ無くなり、不快に感じられていたジャコウ等のフェロモン系の匂いを快く感じる様になるのです。
それも20歳以降では匂いの好みはあまり変化しません。匂いに対する感受性は30~40歳で最高に達し、50~60歳ではまだ匂いに対する感受性は健在です。
ところがそれ以降嗅覚は衰えて行き、80歳までの半数、80歳以上の4分の3は嗅覚がほとんど衰えてしまうと言います。この衰えは特定の匂いに対してでは無く、匂い全般が嗅げ無くなって行くのです。
原因は鼻腔障害や粘液層の乾燥、嗅細胞数や産生数の減少、脳の嗅皮質の退化等が考えられます。嗅覚は感情や気分、記憶と密接に結び付いているので、嗅覚の衰えは全身的な影響を与える事になります。
パーキンソンの初期には幻臭が起きたり、うつ病では自己臭感覚が強くなる事もあります。また痴呆症の前触れとして嗅覚が急激に低下する事があるので診断の一つの目安となります。
食べ物や飲み物を美味しいと感ずるには、味覚と嗅覚が微妙に連携して働いています。そして飲食物は味と匂いだけで味わうのでは無く、温かさや冷たさ、歯応えや舌触りと言った、温・冷・触の感覚が不可欠とされています。
また人だけが好む特殊な化学感覚として、例えば唐辛子の焼ける様な感覚やミント等の清涼感、酢のツンと来る感覚、炭酸の入った飲み物が喉にはじける様な感覚と言った物があります。
これらの感覚は口中では味覚と共に働き、鼻中では嗅覚と共に働くのですが、痛みや温度の伝達にも関与しています。
刺激成分では唐辛子のカプサイシン、アルコール、メントール、シナモン、炭酸ガス等で、これらの化学物質がどの様に感覚器に作用しているのかを調べる研究が進んでいます。
例えば溶存炭酸ガスは冷えたビールや清涼飲料中にあって爽快感を引き起こしますが、主に三叉神経舌枝によって刺激が受け取られます。
水や炭酸ガスに反応する味蕾は喉の奥から食道上部に沢山在り、喉越しの旨さとして感じられるのです。炭酸ガスのピリピリする感覚を感ずるには、上皮組織に存在する炭酸脱水酵素の働きが必要なこともわかってきました。
また嗅覚が衰えた老人は、食べ物の匂いの刺激に代わる物として、かなり大量の香辛料を好む傾向があります。
嗅覚の代わりに別の化学感覚である三叉神経に刺激を求めようとする訳ですが、高齢者の栄養を改善する方法として香辛料の研究は重要な事かもしれません。
新生児歩行反射と言うのがあります。生まれたばかりの赤ちゃんを脇で支え、直立姿勢にして、脚を床に着けると、床に着いた脚を交互に縮め、まるで歩行するかの様な運動をします。
しかし、生後2ヶ月を境にして消失してしまいます。しかし、これ以後でも水中で同じ条件にすると歩行動作をします。
この事から、人間が歩行運動を発達させて行く過程では、運動中枢システムの発達と同様に体重の増加や身長の伸び、筋肉の発達、姿勢の増加、姿勢の変化と言った体の発達や環境の重力などが運動に密接に関わりがある事が分かりました。
また視覚や皮膚感覚だけで無く筋肉や関節等の深部感覚は身体の各部位の位置を確認していて全体の身体のイメージを作り上げています。
また、指で物をつかむ時、その物の質量により軽くつかんだり、しっかりつかんだり、微妙に力加減を調節していますが、これも深部感覚の情報により調節しているのです。
この時、その物の大きさや向きや重さ等に関する情報も筋肉や縫の負荷により、目をつぶっていてもあるイメージを持つ事が出来るのです。
つまり、筋肉や鍵の伸展の度合いにより、常に重力に抗して運動する身体の全体の非常に複雑なバランスを保つ働きがこの深部感覚であるのです。
特に、視覚や触覚は質感を確認しているのですが、物の軽重等の量感は深部感覚の重要な働きであるのです。量感は重力のある環境の中で絶えず鍛えられているのです。
身体のバランスを保つには、目、内耳の前庭迷路や深部感覚の筋肉や関節の情報が正常に働いて、統合的に小脳で調節しています。
しかし、その中の感覚の情報がおかしくなると、バランスを失い情報に即した感覚や反射が出来無くなります。
その様な状態がめまいです。めまいは一般に平衡感覚器の内耳の障害によって起こると言われています。
特に周囲がくるくる回る様な回転性のめまいは内耳から来るもので命に関わるもので無いと説明されて来ました。
その代表的な疾患がメニエール病ですが、吐気、嘔吐、動悸、顔面蒼白等の自律神経症状や難聴、耳鳴り等の随伴症状が起こるのが特徴です。
原因は内耳の水腫(リンパ液の異常)と言われています。しかし、めまいの種類は回転性だけで無く、浮動性、動揺性、眼前暗黒感あるいは失神発作等があり、中には命に関わる病気の場合があります。
ふわふわした浮動感やゆらゆらする動揺性等は内耳の場合もありますが、中枢前庭系性や椎骨脳底動脈循環不全等でも起こります。
また、最近中高年の回転性のめまいには、一過性脳虚血性発作が増えています。
この症状は吐気、嘔吐、等の自律神経症状を伴いながら、内耳から来る耳鳴りや難聴等を示さ無いのが特徴です。
脳梗塞の前駆症状や動脈硬化や高血圧等で内頚動脈の流れが悪くなる間欠性内頚動脈不全等でも起こるので生活習慣病の患者さんのめまいには注意が必要です。
一口に耳鳴りと言っても、問題の無い物から隠れた病気の現れとなっている場合まで色々なケースがあります。
環境雑音の無い非常に静かな事をシーンとしていると表現しますが、実はシーンという耳鳴り(筋肉の動きや血管の音)が聞こえる程静かだと言う意味で、誰でもある「自然な耳鳴り」で病気ではありません。
ジージーとかシャカシャカとか蝉が鳴いている様な耳鳴りの場合、一番多いのは中耳炎とか外耳炎等の耳鼻科領域の炎症性の病気が考えられます。
キーンと鋭い音がしてスーッと消える様な耳鳴りの場合、血圧が上昇している事が多く、もし我慢出来ない様な痛みを伴う耳鳴りなら、脳内出血や脳腫瘍のサインです。
耳鳴りに加えてめまいも吐き気もすると言う場合はメニエール病が疑われ、また耳鳴りと共に鼻血が出て後頭部がひどく痛む時は高血圧によるクモ膜下出血など、重大な脳のトラブルの前兆です。
高血圧や高脂血症や糖尿病などの生活習慣病、心臓や肝臓の病気、ストレスや鬱病、アレルギーや更年期障害等でも耳鳴りが起こります。
緊急対応が必要な耳鳴りには突発性難聴があり、早期に対応する程回復が早いのです。
また耳鳴りはサリチル酸や抗生剤やリウマチ、喘息、心臓の薬等の副作用で起きる事もあります。
歳を取ると感覚細胞や神経細胞の数が減り内耳機能が低下します。加齢に伴う耳鳴りは小さな音や高い音が聞き取れ無くなり、同時にノイズが聞こえる様になって起こるのです。
痛みと言うのはなかなか他人には伝わり難い物ですが、特に高齢者からの痛みの訴えは時として理解し難い場合があります。
一口に痛みと言っても、持続時間、繰り返し、強さや広さ等色々な表現が考えられます。
痛みの表現は、繰り返しの表現としてはチクチク、ズキズキなどがあり、深さや広さでは「針で突く様な」とか「締めつける様な」等の言い方をする事が出来ます。
大きく分ければズキズキ等の擬音的な言葉と「針で突く様な」と言う抽象的で象徴的な表現に分ける事が出来ます。
老化すると知力も低下し抽象的な表現も損なわれると考える為、高齢者に対しては抽象的、象徴的な言葉を避けて、優しい表現で接し様とします。
そこでチクチクやズキズキ等の擬音・擬態語を使いがちになる訳です。ところが高齢者と中年層に対する痛みに関する語彙の調査によると、高齢者の場合では前者の擬音的な表現の境が曖昧になり、抽象的な表現に差は無いという結果が得られたのです。
これは高齢者は身体機能が衰えて来る為、それに従って身体性とより強力に結び付いた擬音・擬態語も変化するのだと考えられるのです。
-方で疼痛や圧迫痛を表しやすい、「針で突く様な」とか「キリで揉み込まれる様な」等の象徴性の高い語彙は身体との直接的な繋がりが薄い分、理解力がより残りやすいと言えるのです。
高齢者だから分かりやすい言葉を選ぶつもりで擬音語などを多様すると、かえってコミュニケーションが取り難くなりかねません。