- Blog記事一覧 -脳と体温と免疫力
事故による怪我や病気で脳神経組織が著しく障害を受けている患者の身体を、33度前後に冷やす事で脳の温度を下げると、神経細胞が死んでしまうのを防ぐことができます。
この脳低温療法は脳の損傷を最小限に抑えて、予後も非常に良かった事から、今では全国の多くの病院で採用されています。
ところがこの療法を始めた頃(゛91年以降)は、患者の体温の低下に伴って免疫力が落ちて重症の肺炎等の感染症を起こし、32~64%もの患者が感染症になりました。
しかし’96年から脳低温療法の際に成長ホルモンを補充を始めたところ、感染率が9%に激減したのです。
成長ホルモンの主な働きは発育を促す事ですが、このホルモンはT細胞やNK細胞、マクロファージ等を活性化させ、胸腺にも働きかけます。
脳低温療法で免疫力が落ちる原因のひとつに、脳の温度が下がって脳下垂体の働きが弱まり、成長ホルモンの分泌量が減る事にあったのです。
この様に体温と免疫力は密接な関係にあり、風邪の時に熱が出るのは視床下部の体温調節中枢が体温を上げる指令を出しているからで、ウイルス等の病原体に出会ったリンパ球が生理活性物質を使って、体温周節中枢の神経細胞に作用するのです。
そして体温が42度を越えそうになると、今度は免疫細胞は発熱を抑える物質を出します。
感染症にかかった時に発熱だけでなく、食欲不振や眠気といった症状が現われるのは、生体の活動量を減らし病原体との戦いに専念しようと、免疫系が脳に働きかけているからだとみる専門家がいます。