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脳血管障害とうつ病

2021.06.11 | Category: うつ病

脳血管障害後に発症するうつ状態を脳卒中後うつ病(P S D : post-stroke depression)と呼んでおり、脳卒中後1年以内の20~50%に発症すると言われています。

PSDはリハビリや社会復帰の妨げになりますし、患者さんのQOLの為にも早期の診断と適切な処置が必要です。

ところが、日本では脳血管障害のうつ状態は、身体機能の障害による心理的なショックで起こる抑うつ状態であると考えられていました。

しかし、既に1981年にはアメリカの研究者が脳内の神経細胞の直接的損傷によるうつ状態であると報告しています。

特に、脳損傷が左半球の前頭に近い程うつ状態の頻度も重傷度も高い報告も出ています。

ただ、脳の損傷の部位や程度により、まだら痴呆、知的機能の障害、無感情状態、失語等の症状がある為に脳卒中後のうつ病の鑑別は難しいのです。

そこで日本ではPSDのうつ状態に、意欲改善、情緒障害改善や痴呆症薬でもある脳循環代謝改善薬が使用されてきたのです。

この脳循環代謝改善薬は田辺製薬が最初に子供の精神発達遅滞に伴う意欲低下等の薬として開発し1978年に厚生省の承認を受けて製品名「ホパテ」として売り出しました。

その後1983年、脳血管障害の後遺症の改善薬としての効能が追加された事をきっかけに、痴呆症やうつ状態の患者さんへの使用量が激増していきました。

ところが、98年にホパテの副作用で11人の患者が死亡したのをきっかけに、再試験の結果、改善薬としての効能を取り消したのでした。

後発の同種の5種類のうち4種類の薬は「効果が認められない」、残りの1種類も「データに疑義あり」として、最終的には情緒障害の効能が取り消されたのです。

つまり、ホパテに類する全ての薬はうつ病には効果が無かったわけです。

これらの4種類の薬だけでも1990年代の後半から販売され、これまでの売上総額は約8000憶円にも上ります。

日本では1998年まで、脳血管障害によるうつ病は放置されたに等しかったのです。


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